13,855人。福岡が「アビスパ2万人プロジェクト」と銘打ち、様々な取り組みによって今シーズン最多の観客が集ったベスト電器スタジアム。サポーターからの熱い想いが届けられた明治安田生命J1リーグ第31節の横浜FM戦で突きつけられた0-4というスコア。強力な3トップを中心に手数を掛けずに縦に鋭くゴールに迫ってくる相手に自分たちの代名詞である堅守は崩された。
「うまくいきませんでした。いった場面もあった、自分たちの色を出して前から守備をするところなど。対応してみましたが、シュートに繋げられそうな、ショートカウンターに繋げられそうな場面も0ではなかったと思いますが、全体的に前半はあまり良くなかったと思います。数回のカウンターで失点を簡単にしてしまったので、相手の質の高さに簡単にやられてしまったところが、このゲームのすべてだったなというふうに思います」(長谷部茂利監督)
真っ先に思い浮かぶ完敗という言葉。リーグ戦2試合続けての4失点。川崎F、横浜FMとJ1屈指の攻撃力を誇示する相手に力の差をまざまざと見せつけられた。ただ、そういう相手に対して真っ向勝負をしたのも事実。自分たちがやろうとしたことを何も表現できなかったわけではない。
「0-4の試合でこんなことを言うのもあれですけど、そんなにゲーム内容の差はなかったと思う」(山岸祐也)
今の福岡を見ていればこの言葉を聞いて決して強がりには感じない。着実に力をつけてきたからこそ実感するものがある。これまでの福岡は強固な守備ブロックを築き上げ、ロングボールを多用する形で少ないチャンスをものにしながら粘り強く勝点を積み重ねてきた。それでもJ1での3年目を迎えた今シーズンはそれだけに頼ることなく、ハイプレスを多く駆使。ボールを持てば縦への鋭いカウンターに加え、後方からショートパスも使って多くの選手が絡んで意図的にボールをつなぎ、確実に前進させるビルドアップを試みながらチャンスを創出しやすい、ゴールを奪う確率を上げるためのチャレンジをしている。
例えば、61分の場面。右サイドの前嶋洋太から前寛之に楔のパスが入るとダイレクトでフリック。ボールを受けた山岸はワンタッチで井手口陽介へ。そこから左サイドの亀川諒史に展開し、クロスを最後はウェリントンが頭で合わせた。惜しくも枠は捉えられなかったものの、テンポよくボールを動かして自分たちのストロングであるサイド攻撃をチーム全体で確実に作り出し、迫力をもってゴールに向かうことが表現できたシーンだった。
多くの人数が前掛かりになって高い位置からボールを奪いに行き、主体的にボールを動かしてゴールに向かう作業に関わるということは当然リスクもある。最終ラインの背後のスペースは広くなり、攻撃を完結できないと得てしてこの試合のようにカウンターを受ける回数も増える。ただ、逆の見方をすれば昨シーズンまで以上に攻撃的な姿勢を見せているからこそ、こういうシーンを作られているということも言えるはずだ。そこに今の福岡の成長に伴う痛みが存在する。
「自分たちが目指しているもの、『こうだ』というものを提示している中で、うまくいかないこともあると思うんですね。それが天皇杯、リーグ戦の川崎F戦、今日の試合というところで失点が多くなってしまったところはあると思うんですけれども、私が選手に話すのは、それをも自分たちで乗り越えていかなくてはいけない。失点してもいいから攻撃力上げていこうという話はしていません。自分たちのスタイル、私が選手たちに要求してることは無失点で複数得点で勝つことを求めています。それは私がここで監督をしている以上続くと思います。ですから、3点取られても4点と取って勝とうということはないですし、点数を取られてもいいからというふうにはしないと思います」(長谷部監督)
当然、自分たちが大事にしている「軸」をぶらすことはない。それでもJ1定着、そして常にタイトル争いをする強豪クラブになるためには継続的な進化が必要だ。守って、守って勝つのではなく、攻撃力も兼ね備えながら勝つ。そこへ辿り着くには一朝一夕では成し遂げられない。今の福岡は日々、チームとしてのクオリティを上げるべくトライ&エラーを繰り返しながら成長過程を経ている段階と言っていい。
「アビスパ史上、今が一番おもしろい」。これは今回の集客プロジェクトでプロモーション用に用いられた言葉。この試合だけを見れば疑問符を抱く人もいるだろうが、これまで塗り替えてきた歴史の数々。そして、成長の跡を見ればこの言葉にも納得がいくだろう。
「良いものを見せられたと言うか、やられてはいけないんですけれども、彼らのそういうカウンターの質の高さ、分かってはいましたが抑えることできなかった。自分たちは得点に繋げることができなかった。その差を感じながらも、良いところは真似していいと思います。それぐらい質が高かったと思います。簡単には真似ができないのも分かっていますが、良いものは良いというふうに認めることも大事だと思っています。決して引きずることなく、1週間後にまた大事なゲームがあります。今日のゲームも大事でしたし、1週間後も大事です。そこに向けて身体の回復と心の調整をしっかりして挑みたいなと。そういうふうに準備したい」と長谷部監督が言えば、山岸は「またしっかりと振り返って反省して、反省するだけじゃなくてここをこうしたらもっと良くなるだろうとかこういうふうにしていこうというところをチームでしっかり合わせる。今まで積み上げたものが一気に崩れるわけじゃないし、すごいネガティブになっても仕方ないので、次の(ルヴァンカップ)決勝で良いパフォーマンスを。今年一番の試合ができるように一つになって、頑張っていきたいと思います」と力強い言葉を残してくれた。
リーグ優勝を目指す横浜FMがこの試合で見せた執念。強い意志。チームとサポーターが一体となって死に物狂いでタイトルを奪いに行く姿を間近で体感した経験はクラブ初タイトルを狙う11月4日のルヴァンカップ決勝へ決して無駄にはならないはずだ。これまでもクラブ一丸となって前向きに自分たちにベクトルを向けて成長してきた福岡。この悔しさを糧に国立競技場でこれまで積み上げてきた力を遺憾なく発揮してほしい。
Reported by 武丸善章