そのとき39歳のベテランGK修行智仁は、1点ビハインドで猛攻を続ける仲間たちのことを目で追いながら、ピッチサイドでウォーミングアップを続けていた。すでに後半、3度の交代が行われ、残り時間もほとんどなかった。だが、先発のセランテスが脳震とうになったときに備えてのことである。
明治安田生命J3リーグ第29節ガイナーレ鳥取戦の89分。マルクス ヴィニシウスが2度目の警告を受け、退場となった。サッカー専用で、コンパクトなオールガイナーレYAJINスタジアムのピッチの外を、ブラジル人ストライカーが肩を落として退いていく。修行は相手のベンチ前まで歩いていって、迎えた。
「僕も退場したことがあるので、よく分かるんですよ。相手サポーターの前や、相手ベンチの前を通るときのヴィニの気持ちが。もちろんいい気はしないし、いろいろ考えてもしまう。だけどそこに僕が行けば、ヴィニも余計なことを考えなくて済むかな、と思って。
ヴィニにはいつも助けられているし、何といっても仲間なんでね。彼はとてもピュアな人間なので、本当に責任を感じている様子でした。別に僕が何か言葉をかける必要はなかったです」
仲間を思う気持ちだけでなく、あくまで勝利を追求する気持ちも込められていた。もちろん、その先にあるのはJ2昇格だ。
「アディショナルタイムが残っていましたからね。ヴィニは仕方ないとして、空気的に全体がガクッとなってしまうのは、まだ早いと思ったんです。たとえこのゲームを落としても次がある。ヴィニも出場停止が解ければ、また戻ってくる。落ち込んでいる場合じゃないぞ、という思いもありました」
自身は大分トリニータでプレーしていた2016年、J2昇格を経験している。2019年には、当時はJFLだったFC今治のJ3昇格に大きく貢献した。その経験値は、新たに今治里山スタジアムが完成した今シーズン、J2を目指して突き進むチームにとって、大きなプラスとなるはずだ。
「結局、鳥取戦は負けてしまいましたが、それでどんよりしてしまっても、昇格するチームの雰囲気ではないと思うんですよ。ポジティブな空気をつくることをトレーニングから意識しています。
里山(スタジアム)では、サポーターのみなさんにそういう空気にしていただけます。でも、アウェイに乗り込んで勝つ醍醐味もある。若い選手たちに、それを知ってほしいですね」
その言葉に呼応するように、アウェイ連戦となった続く第30節福島ユナイテッドFC戦は1-0で勝利した。思うように試合をコントロールできず、GKセランテスの好プレーにも支えられての辛勝だったが、今シーズンなかなか勝てないアウェイから3ポイントを持ち帰ったことで、チームとして一つタフになった。
「プレッシャーをはねのけ、状況に左右されない強さ。最後の最後、いざ昇格が決まるというとき、そういうタフさが必要になるのでね。
昇格争いは、まだまだこれからですよ。間違いなくひと波乱、ふた波乱あるし、このまま順調に昇格できるチームはひとつもない。強い覚悟を持って進んでいくことが大事です」
今シーズン、ここまで2試合に出場。3試合前の第28節ヴァンラーレ八戸戦から、再び試合メンバーに名を連ねる。チーム最年長のベテランは、勝っても負けても、自身が試合に出ても出なくても、メンバーに入らなくとも、状況に左右されることなく、常にあるべき姿を追い求め続ける。
Reported by 大中祐二