「点を取ることよりもアシストして周りを生かすほうが好きです」
明治安田生命J3リーグ第29節・長野戦(2△2)終了後の囲み取材でそう話したのは左SB福村貴幸。今季ここまでチーム最多の26試合に出場し、ボール奪取とビルドアップの起点となる泰然自若なプレーヤーである。一見大人しそうな雰囲気だが、ピッチに足を踏み入れればトーンを強めて最後まで叱咤激励を繰り返し、アーリークロスを見せる定位置のサイドバックにとどまらずセンターバック、ボランチとプレーエリアを変えてもシュートブロックや球際でのデュエルで負けないクレバーな姿を披露している。
そういった熱いプレーもまるで淡々と遂行している佇まいが彼らしい。大体表情を変えることのなく、冷静に試合を分析して黒子に徹するかのような節がある。前述の長野戦でも1点を追う77分、金崎夢生と「目があった」福村が斜めのパスに反応しフリーで受けると、GKとの一対一を制して自身6年ぶりのゴールを決めた。しかしその瞬間も顔色を変えず、すぐさまボールを拾い上げて定位置に戻っていった。無論ホームで負けられないこと、そして今18位と残留争いを強いられている状況から抜け出したい一心だったからこそであるが、その熱を感じさせながら冷静さを欠かないたくましさがあるからやはりチームに不可欠な選手である。
ただ、周りを生かすことが生きがいだと思っていた選手が今「もっと貪欲にゴールを狙いたい」と、心境の変化を口にする。ゴールした長野戦のあと、「思った以上に反響があって。みんな喜んでくれているんだな」と実感したという。そして、新指揮官の金鍾成監督のもとでまだ2週間足らずの教授だが「前へ前へという姿勢を求められながら奈良戦(1◯0)に勝った経験は大きいし、『俺らやれるんじゃないか』という思いもある。隙を見せない冷静さとともに、ラインアップして前進することの必要性を改めて感じている」と、ここ2試合で福村はどんどんと深い位置へ潜り、ゴールに絡みたい気持ちをふつふつと沸き立たせて「そういうプレーが楽しい」と思い出したかのようにタッチライン際で上下動を繰り返す姿を見せている。もちろん、より体力面が問われることになるが「始めからガンガン行って、最後苦しくなってもチャンスを作れるかが自分らしさ」と、その姿を見せたい一心だ。
黒子役に徹して控えめな言葉を連ねてきた彼から今湧き出る意欲は、斬新な福村貴幸を見せるトリガーとなる。
Reported by 仲本兼進