「わからんぐらいオモロい」らしい。サッカーが。中島大嘉は4日に公開されたトレーニングでたっぷりと汗をかき、最後までスタッフたちとの会話を楽しんだ後に報道陣の前に姿を見せ、開口一番そう言った。「オモロいっすよ、サッカー。やったことあります?」。いつもの中島節は健在で、むしろ普段以上に滑らかだ。それもそのはず、彼にとっては今が何度目か数え切れない成長期のひとつであり、ちょっと色あせた赤色の髪も何だか鮮やかに見えた。少し涼しくなった感のある名古屋の練習場は、天高く馬ならぬ中島肥ゆる秋が到来しようとしている。
「名古屋に来て3ヵ月ぐらいですけど、ちょこちょこ試合には出て、ルヴァンカップには割と長い時間で使ってもらっている。メンバー外でずっと試合に出られてない時よりも、成長スピードは全然違うなっていうのはほんとにすごく感じていて。もっと出られる時間が長くなっていったら、残る短い期間でもメンバー外の時から想像できないぐらいの成長率は見せられるかなって感じてるんで、楽しいっす。サッカーがオモロいです」
名古屋に来てからの中島の毎日は、発見の連続だった。長谷川健太監督との出会いはストライカーとしての様々な感性や考え方を刺激され、ハイレベルな選手たちとのプレーやコミュニケーションは彼の負けん気を焚きつけるた。コーチたちからのアドバイスも有益なものが多く、練習と試合の繰り返しの中に多くの学びがあると中島はいっきにまくしたてる。この短時間でこんなに喋れるのかというほどに、彼は本当によく話す。
「この前の広島戦でも1回、受けて陽也さんに落として、陽也さんからクロス上がってきて、外したけど相手の前に入って、ヘディングは外したシーンがあった。ゴールが決まらなかった点だけ見たらミスですけど、まずはそこでしっかりといいタイミングでボールが受けられた。しっかり味方につないで、もう1回入り直して、相手の背中から相手の前に入ってヘディングするというここ何週間か取り組んでるところの流れも良かった。次のステップでそれをどうやって枠に持っていくか、より再現性高くしていくかっていうところになってくるので、他の人からどう見られるかわかんないですけど、自分からするとすごく成長だし、あ、なるほどねと。こうやってやったらええねんな、簡単やなって思った。ずっと反転からのシュートも練習してて、練習の中で反転からのゴールもすごく増えてます。試合でもしっかり相手見て、反転できるなってところを反転できれば自分は身体強いんで、『今やな』ってシーンを見つけ出していければ、めちゃめちゃ点取れると思う。今はそれを見つける作業のところなんで、試合が終わってから映像を見て、この時行けたなっていうのを見つけて、それを練習で試して、やっぱこれいけるわってやってるところです」
何はともあれ充実していることはよく理解できた。自己分析として「ホンマはめっちゃメンタル弱い」という中島だけに、好調は何よりの好材料だ。得点が取れない、良いプレーができないと思うと「もうサッカー辞めたい」とまで落ち込む彼をチームメイトも理解し、前週の練習では紅白戦で良いプレーをした中島を褒めようとした稲垣祥に、永井謙佑が「褒めないで!そういうことでも一喜一憂しちゃうから」となかなかないアドバイスをしていた。良いと思って次の試合に出て、良くないと落ち込んでしまうということなのだろう。それを思っても、自己肯定感の高い昨今は彼にとっては成長のし時ということにはなってくる。
ただし中島にとって名古屋での日々は、“気づき”のレベルアップでもあるというのは大きな変化かもしれない。「今のがミスだったかミスじゃなかったかっていう部分もひとつ上のレベルで今は見られている」。以前とは自分が見えている景色が、プレーが、サッカーが変わってきているというのだ。「練習で出たエラーに対しての気づきも、今までだったら気づかなかったエラーにも、今こうしたらよかったなって気づける」ことで、取り組みの幅も量も比例的に増えるというのは面白い考え方で、そもそもが練習の虫である彼にとってそれはサッカーへのモチベーションを何より刺激してくれるものに違いない。
長谷川健太監督も成長と好調を認めるいま、次戦がルヴァンカップというのは名古屋にとっても中島にとっても朗報と言えるだろう。準々決勝の鹿島戦では第1戦でやや空回りしたところ、第2戦では先制点を挙げて相手を見返してもみせた。その試合をきっかけに自信をつけた赤髪のストライカーはさらなる研鑽に励み、強気と言えるほどのメンタル状態で準備を進めている。どれぐらい強気かと言えば、これくらいだ。
「ルヴァンカップは優勝するんで、あと3試合は少なくともスタメンで長い時間出られる可能性はあるかなと思ってるんで。ルヴァンカップで結果を残せばリーグのスタメンも見えてくるし、今年の残りはすごく短い時間しかないですけど、その短い時間でも進化した“中島大嘉”を見せられるんじゃないかと思ってるので。楽しいですね、毎日の練習が」
「優勝するから3試合は長い時間出られる」なんてなかなか言えることではない。それを有言実行にできるか、口だけになってしまうかは彼次第で、それは自らにかけたプレッシャー、あるいは暗示なのかもしれなかった。中島はこうも言っていた。「余裕っすよ。福岡がどうとかじゃなくて、俺が強いんで」。点取り屋のメンタルとしてこれは合格点、いや満点である。初の移籍ですでに多くを手にしている男に足りないのは、シンプルに結果だ。
「出場時間を伸ばすにはゴールですよ。それはずっと練習してる。いろんな形で練習してるし、練習した分だけ向上している」
絶対に超えられない自分の中の“理想の中島大嘉”はまだまだ遠い(1試合10得点とかするらしい)。だが、着実に、少しずつ近づいてもいる。それを証明する場はまだ残されているのだから、その貴重な機会を心して見つめたいと思う。どんなゴールでも中島大嘉らしいゴールだ。彼はただ、ボールをゴールに叩き込めばいい。
Reported by 今井雄一朗