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【取材ノート:福岡】エースストライカー山岸祐也が魅せる進化。「9.5番」が福岡を新たな景色へと導く

2023年10月2日(月)


「打て」。その瞬間、福岡サポーターの想いは一つだった。明治安田生命J1リーグ第29節の鹿島戦。46分、前寛之からのパスを受けた山岸祐也は前を向く。一度は相手DFにカットされかけたが、すぐさま奪い返し、ゴールを視界に捉えた。右足を振る。狙い澄ましたシュートはわずかに右に外れた。「ああいうのを1本決めれるか、決めれないか」。スコアレスドローに終わった試合後、ミックスゾーンで悔しさを露わにした。


「勝点3を取りたかったですね。鹿島さんはJでも常に常勝軍団じゃないですけど、上に順位がいて自分たちがちょっと前まではJ1残留というところに目標を置いていましたけど、でも今年のアビスパはもっと上を目指せるチームというのは言っててルヴァンカップも天皇杯もベスト4に残っていますし、リーグ戦も3位のところまで本当に紙一重のところまで来ているので、こういうチームに勝てるようなチームになっていかなければいけない」

逆転優勝を狙う鹿島とは勝点差2。この試合で勝てば順位をひっくり返せる位置にいた中で、強豪相手に堂々と立ち向かっただけに勝点1を取れた安堵感ではなく、「勝てた」という気持ちが強くなるのは多くの人が思うところだ。そんな感覚にさせてくれるのは守備面の安定に加え、攻撃面の成長にある。カウンターだけではなく、少しずつではあるが、チームとして意図的にボールを前進させ、多くの選手が絡む崩しが見られる場面も出てきたからこそだ。それを可能にしているのは山岸の力が大きいと言っていい。

ここまでリーグ戦はチーム最多の8得点。ここ一番で多くのゴールを挙げてきたエースストライカーへの相手のマークは当然厳しくなる。だが、彼は頭が良い。1トップの位置に張り続けることなく、巧みなポジショニングと技術で相手のライン間に落ちて起点となり、前を向いて決定的なパスを出す。器用に自身のプレーの幅を広げているのは間違いない。前節の柏戦では抜群の連携で2アシスト。この試合でもそう。ラストパスなどチャンスにつながったプレーを表すチャンスクリエイト(©JSTATS)はチーム最多の5を数え、シャドーに入る紺野和也や金森健志らと共に良い距離感で攻撃を牽引している。その姿はまさに「10番」だ。

「試合中に話しながら相手を見ながら変えていくというところが特に個人としてもチームとしても意識していたところで最初は張って受けようかなと思っていたんですけど、ボールが入らなかったので、ボランチの間のところに顔を出して1本自分に入ったり、2本入ったりするとボランチが前に出れなくなるので、そしたらボランチのヒラ(平塚悠知)だったりヒロ(前)が受けれてセンターバックとのパス交換からサイドで剥がしたりというシーンもできてたし、相手を見ながら相手の嫌なことしていくというところは良かった。試行錯誤をしながらいろんな選手がゴールを取れればもっとアビスパは強くなっていくと思う」

そんな想いを持ちつつも彼の主たる仕事は点取り屋。決して「9番」としてのこだわりが失われることはない。

「動きだったり、そのポジショニングだったり、ゴール前の動き直しの回数だったりというのは減らしちゃいけないと思うし、そのポジションを取ったり、こぼれ球を詰めたり、本当に細かいところだけどその動きというのを止めちゃったら本当に終わっちゃうので、またゲーム中と試合終わった後も自分の動きだったり、ポジショニングだったり、動き直しの回数だったりというところを突き詰めてまたもっともっと高い動きの質だったり、そういうところはこだわりながら繰り返しめげずにやり続けていくしかないと思うし、そしたらいつかチャンスが来てそれを確実に決めるだけだと思うし、その1本に懸けるじゃないけど、そういうのをこだわってやっていきたいと思います。やり続けることが大事だと思います」

9番の役割に磨きがかかり、10番としての要素が増している山岸は今まさに「9.5番」と表現したくなる存在だ。そんなエースに呼応されるように着実に増すチーム力。今の福岡は自信を持ってどんな強敵でも恐れることなく、戦いに挑めている。

「過信になってはいけないと思うけど、自信はみんな持っていると思うし、現に結果として残している。この夏の戦い以降は後半戦だけだったら勝率はJリーグで1位ぐらいじゃないですかね。本当に自信を持って戦えているし、ルヴァンカップも天皇杯も残っていてそれは本当にチーム全員が自信を持っていいと思うし、結果として残しているので、ただそこで過信にならないでまた自分たちを見つめて常に挑戦者の気持ちというのを忘れないで、メラメラした気持ちだったりを忘れずに来週川崎とアウェイですごい大事な一戦がありますけど、絶対勝ちにいきたいと思いますし、アビスパは国立で1回もやってないし、個人としても新しい国立になってやってない。最後国立でやったのは高校サッカーの90回大会、古い国立だったので、次川崎にしっかりと勝って新しい国立で優勝してサポーターのみんなと喜びたいと思います」

次なる戦いは天皇杯準決勝の川崎戦。その直後にはルヴァンカップ準決勝の名古屋戦も控えている。クラブ史上初の決勝の舞台へ。福岡の歴史を塗り替えるための大事な一週間になる。「楽しみですね。ワクワクしています。自分たちのアグレッシブさというところを全面に出してしっかり勝ちたいと思います」。日々進化する背番号11はきっと福岡が見たことのない景色へと導いてくれるはずだ。

Reported by 武丸善章