163センチと小柄なドリブラーの近藤高虎が、攻守に八面六臂(はちめんろっぴ)の活躍を見せている。
第23節・ヴァンラーレ八戸戦の40分。右サイドから上がってきたクロスをペナルティエリア内の左で受けると、中に持ち込み、右足を振り抜く。今季4得点目とはならなかったが、このシュートを新井光が押し込んで、チームは先制に成功した。
59分には、またぎフェイントから左サイド深くまで運び、左足で上げたクロスをマルクス ヴィニシウスが頭で合わせて追加点。どちらのゴールにもしっかり絡んで、チームが連勝する原動力となった。
秀逸だったのが2点目のアシストだ。「相手に引っ掛からなければ、ヘディングの強いヴィニが必ず決めてくれる」と、ふわりと高い軌道のボールを供給。ブラジル人ストライカーも、DFの背後からうまく前に回り込み、頭でたたき込んで信頼に応えてみせた。
左サイドハーフで先発した近藤は、交代策に伴い、終盤は左サイドバックとしてプレー。八戸のカウンターに最後まで食らいついていく守備を貫き、そのポリバレントな能力をいかんなく発揮した。
攻撃力が近藤の魅力だ。しかし8月からチームの指揮を執る工藤直人監督は、左サイドハーフで先発起用した試合の途中で左サイドバックに配置転換し、近藤を最後まで“使い切る”選択をしばしば見せる。その理由を、工藤監督は次のように説明する。
「高虎のスプリントする力、回数はチームでもトップクラス。後ろに引かず、前へ、前へと突き進む彼のプレーは、試合の最後、勝ち切らなければならない苦しい時間でも、チームを引っ張ってくれるんです。何より、負けん気の強さがいい」
前任、髙木理己監督(現・AC長野パルセイロ)も、サイドハーフ、サイドバック、さらに3バックで戦うときにはウイングバックと、近藤の突き進む推力を重用した。指揮官たちが期待するのは、さまざまなポジションを器用にこなしてくれる便利さではなく、どんなポジション、役割であっても、変わることなく全力で応えようとする姿勢である。
工藤監督は、選手が日々、いっそう良い緊張感を持ってサッカーに取り組み、チーム内の競争を活性化させるために、ぎりぎりまで試合のメンバー、先発メンバーが分からないようなチームマネージメントを心掛けている。近藤も、そのやり方がなじんできた。
「自分がサイドハーフなのか、サイドバックなのか。毎試合、直前のミーティングまで分からないんです。直さんが監督になって最初のころは、そこであいまいな部分が自分の中にあったんですが、今は『どちらでも』とトレーニングから頭も体も準備しています。サイドバックであれば1対1で負けない。サイドハーフであればどんどん仕掛けていく。やるべきことは、はっきりしています」
近藤がサイドバックに入ると、ロングボールで狙ってくる相手も少なくない。そんなときも、近藤は協調性と負けん気を全開にさせて、揺らぐ気配はまったくない。
「ロングボールに対してはテル(照山颯人)、トミくん(冨田康平)といった、左サイドで組むセンターバックに競ってもらい、自分がカバーする形を取ります。自分が行かなければならないときは、競り勝てないまでも、しっかり体を当てて相手に自由にさせない。守備での空中戦は武器ではないけれど、1対1は自分の強みだと思っています」
今治出身の小柄なドリブラーが、J2昇格に突き進む地元クラブで放つ存在感は増すばかり。勝負のシーズン終盤、その全力プレーと貢献は不可欠だ。
Reported by 大中祐二