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【取材ノート:藤枝】現実路線でひとつ踏みとどまった藤枝。J2終盤で紡ぎ出していくエンターテイメントとは

2023年9月15日(金)
前節・熊本戦(9/10)で連敗を4で止め、ようやく9試合ぶりの勝利をつかんだ藤枝MYFC。今節から、町田、東京V、清水、長崎と上位との対戦が続くことを考えても、その前にひとつ勝てたことは本当に大きかった。
もちろん、まだJ2残留が確定したわけではないので、プレッシャーのかかる戦いは続くが、上位との対戦では何も恐れることなく思いきってチャレンジできる状況になった。須藤大輔監督も「笑顔が増えた」と言うように、先週までに比べてチームの雰囲気はかなり明るくなっている。

そんな価値ある完封勝利となった熊本戦は、路線変更ではないが、戦い方に今までの藤枝とは異なる部分が多かった。まず守備では、ハイプレス最優先ではなく「コンパクトなミドルブロックを作って、中央をロックする(絞って固める)という守備を最近やってきて、今まで以上にそちらに振った」(須藤監督)という部分。それでもラインを下げすぎることはなく、ミドルゾーンでコンパクトな布陣を整えたうえで、前向きにボールを奪いに行くという守り方を徹底したことが、最終ラインからきっちりとボールをつないでくる熊本に対してハマり、10試合ぶりの無失点につながった。
攻撃でも、ビルドアップ時のミスからの失点が多いという反省もあって、プレッシャーをかけられた際には割りきってロングボールを使うというシーンを増やした。それによって相手ボールになる回数も多かったが、前線に起用したアンデルソンや矢村健がハードワークして起点を作ったり裏に飛び出したりするシーンもあり、少しずつ相手に揺さぶりをかけて後半の2得点につなげた。
ボール保持率が35%というのは何より藤枝らしくない数字だったが、現実路線を強めたことが結果につながったことは間違いない。

須藤監督はこれまで「超攻撃的エンターテイメントサッカー」という理想を妥協なく追求していく姿勢を貫いてきたが、ここにきて信念を曲げたのだろうか。指揮官自身は次のように語る。
「いちばんの信念は、J2に残るというということです。今はサポーターもすごく増えているし、周りからも認められ始めている。クラブスタッフもすごく頑張っているし、行政もしっかり動いてくれている。そういう中でJ2という舞台をから落ちてしまったら、全部を失って、J1昇格などの信念の先にあるものも取れなくなってしまう。今までもきれいごとを言っていて落ちたチームをたくさん見てますし、今の我々はそうなってはいけない。だから信念を曲げるじゃないけど、状況にあった柔らかさを出すべきだと思っています。そうしてまずは残留を手繰り寄せてから、また好き放題やろうかなと(笑)」

いくつかある「信念」の中で、もっとも大事なものを最優先することを明言したうえで、次のようにつけ加えた。
「今は選手たちが勝ち方というのをわかりつつあるのも事実だと思います。超攻撃的という部分は持ち続けながら、守備もエンターテイメントになりうるし、ここまで下がってきたところからまたグッと上がっていけば、それもエンターテイメントになりますよね」

前節の古巣・熊本戦で決勝ゴールを決め、試合後の感動的なヒーローインタビューで話題を集めた小笠原佳祐も、あらためて地に足をつけて上を目指していこうとしている。
「本当にここからまたコツコツ進んでいければと思います。町田戦は、チームや自分の株を上げるというか、現在地を確かめる意味でも一番いい相手だと思うので、勝つことをいちばんに意識して戦いたいです」(小笠原)

おもしろいドラマには、必ず苦境があり、そこからたくましく這い上がっていく姿が描かれる。その意味では、ここからしたたかに上位陣と戦い抜き、しぶとくJ2に生き残っていく姿も、醍醐味十分のエンターテイメントとなるはずだ。

Reported by 前島芳雄