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【取材ノート:今治】ヴィニシウス アラウージョの魂が共鳴する

2023年9月14日(木)


「コンディションは100パーセントではないけれど、戦う気持ちは100パーセント」という試合前の言葉を、まさしく最後のプレーで体現した。

自陣でクリアボールを拾うと、相手の寄せにもビクともせず、前を向き、ゴールに向かって突進する。途中、2人の選手に手ひどくユニホームを引っ張られたが、倒れない。グイグイとボールを運び、右でフリーだったFW千葉寛汰へパス。しかし、この試合で先制ゴールを挙げていた千葉のシュートは無情にもクロスバーの上を通過し、試合終了を告げるホイッスルが鳴った。


FC今治のデビュー戦となった明治安田生命J3リーグ第26節、アウェイの奈良クラブ戦。1-1で迎えた82分に途中交代でピッチに入った。

J2昇格圏内に勝点3差に迫るチームにとって、勝てば奈良と順位が入れ替わる6ポイントマッチだった。夏の移籍で加入したばかりのブラジル人ストライカーを送り込んだ工藤直人監督は、「彼のコンディション的に、想定していたよりも長い時間のプレーになった」と、勝負の一手であったことを説明した。

2020年、2021年とモンテディオ山形で14ゴールを挙げ、FC町田ゼルビアでもプレーしたヴィニシウス アラウージョは、今年前半はカタールのウム サラルSCでシーズンを送る。6月にリーグが終了すると、母国ブラジルに戻り、パーソナル・トレーナーを付けて次なるチャンスに備えていた。そこに届いたのが、昇格のために加速したい今治からのオファーだった。

チームに合流したのは、奈良戦に向けた準備が始まる9月5日、オフ明けのトレーニングである。対人プレーから遠ざかってはいたが、巧みなボールテクニックをさっそく披露すると、週末のメンバー入り、そして出場にこぎつけた。

「チームを助けたい一心でした。最後の場面は自分が倒れたら笛が鳴ると思って、絶対に倒れてはいけないと思いながらボールを運びました。

試合が終わってすぐに映像で確認しましたが、寛汰にパスを出したところで相手DFにスライディングされていました。後ろから追いかけられているのは私にも分かっていて、自分がファウルをもらっても、プレーが止まったらとにかく試合終了だと思い、良いポジションを取っていた寛汰にパスを出したんです。

ゴールにつながらなかったのは残念。ですが、私たちがやるべきことは、引き続き日々、練習し、向上していくことです」

ごく限られた時間ではあったが、今治のエネルギー、ポテンシャル、スピリットに触れたデビュー戦。新天地で、魂が共鳴する。

「単刀直入に、あきらめない今治のスピリットを感じました。アウェイの地までたくさんの方が応援に来てくださったことも、とてもうれしかった。応援してくださるみなさんを含め、今治は最後まであきらめずに戦い、ゴールを決めるチャンスをつくりました。引き続きやっていくのみです。私自身、次は自分で最後のフィニッシュまでプレーして、ゴールネットを揺らせられるように状態を上げていきます」

Reported by 大中祐二