Js LINK - Japan Sports LINK

Js LINKニュース

【取材ノート:福岡】博多の森を熱くさせた魂の叫び。福岡の歴史を変える中心に奈良竜樹あり

2023年9月12日(火)


JリーグYBCルヴァンカップ準々決勝第2戦の終盤。奈良竜樹の頭の中には1週間前の嫌な出来事がよぎっていた。それは明治安田生命J1リーグ第26節、この日と同じFC東京相手に2-0でリードした86分にCKからゴールを失ったことだ。

クラブ史上初となる2年連続ルヴァンカップベスト4進出へこの日の福岡に課せられたミッションは2点差以上での勝利。だからこそ、同じ2-0でリードした状況で絶対に失点は許されなかった。それでもピンチはやってくる。88分、アダイウトン(FC東京)が左サイドからペナルティエリア内に侵入し、ラストパス。それに対し、体を張ってブロックしたのは背番号3。立ち上がるとすぐさま魂をぶつけるかのようにゴール裏のサポーターを煽った。

「あまり頭の中で論理的に考えて行動したというよりもどうにか全員のパワーで勝ちたいなという思いと今日はコートが(いつもと)逆だったので、つらい時に後ろからサポーターの皆さんの声援で背中を押してもらえたのが最後すごいパワーになったし、僕たちにとっては逆に東京さんが(コート)チェンジを決めたんですけど、それが良いふうに働いたのかなと思うし、この独特の、福岡のこのホームの雰囲気というのは相手にとっては嫌だろうし、自分たちにとっては本当にパワーをもらえる。最後CKが多くてというか、セットプレーも何回かあって(FC東京との)3連戦の1戦目の嫌な雰囲気、イメージもあったし、向こうはそこに多分パワーを使ってくる。ロングスローもあったり、ただそういうものも全て弾き返せたのはサポーターの皆さんのパワーだった」

1週間前と違ったのはここがホーム、ベスト電器スタジアムだったということ。前半から後半のような盛り上がりでサポーターから送り続けられる大声援。奈良の渾身の想いが博多の森の一体感をさらに強くし、勝利を手繰り寄せた。


これで今シーズン、福岡が目標に掲げた「リーグ戦8位以上、カップ戦ベスト4以上」のカップ戦はJリーグのチームで唯一、二つとも勝ち上がって達成。だが、ここまでの道のりは簡単なものではなかった。開幕当初から怪我人が多く、メンバーのやり繰りが難しい中でキャプテンの奈良は自分がピッチに立つことはもちろん、いかにチームの力を引き上げるかにも注力してきた。特に目を見張るのは若手選手へ成長を促すアプローチ。例えば、この試合の後半、負傷によって途中交代を余儀なくされたものの、1点目につながる好フィードを繰り出し、守備でも安定したプレーを見せていた井上聖也。その井上の代わりに急遽入って無失点に貢献した三國ケネディエブス。二人のCBは高いポテンシャルを持ちながらなかなか実戦で安定したパフォーマンスを発揮し続けることができていなかったが、今シーズンは2人とも成長曲線を上手く描き、頼もしさが増している。

「(井上)聖也に関しては今年こうやって出場機会を掴んでいろんな同じポジション(の選手)でのアクシデントがあったりとか言うところでチャンスを掴んだというかね。彼がしっかりと準備をしていたからこそ、こうやって素晴らしいパフォーマンスを(今シーズン)毎試合見せていたと思うし、今日も得点につながるフィードがあったり、毎試合毎試合自信を持ってステップアップというか、成長している姿を見てすごく頼もしかったし、そういう中で僕自身もそういう若い時に、良い時に怪我をしてしまう同じような経験をしたことがありますし、今はつらいと思うし、悔しい気持ちはあると思うけど、上手くサポートしたり、彼に何か良い、この時間を無駄にしないように有意義に過ごしてもらえるようにサポートをしたいと思うし、その中でスクランブル的な感じで(ケネディは出て)難しかったと思う。アダイウトン選手だったり、気を抜けないような相手とのマッチアップでしたけど、ケネディはケネディで良い入りをしてくれましたし、彼の良さ、身体能力の高さだったり、前に出てカバーして、上で叩いて。彼の特長がしっかり出たと思うし、僕としてはあまりいろいろ考えるというよりも(個々の)良さをどんどんチームにもたらしてほしいという意味で言うとそこを上手く引き出したいなというところはあったので、今日は本当に難しいシチュエーションでの出場でしたけど、自信もってやっていたと思うし、こうやってチームというものはそうやって助け合いというかね。サッカーはチームスポーツなので、こうやって助け合うというか支え合うというか、そういうところで、そこの良さというのは福岡の唯一無二の良さだと思う」

チームを引っ張るというよりも後ろから選手たちの背中を押しながらリーダーシップを発揮する奈良。後ろは俺がカバーするから思い切ってトライしてこい。そう言わんばかりに4バックでも、直近公式戦4試合で採用している3バックの中央でプレーする時でもカバーリング能力の高さが際立つ。

「安心して(周りの選手がボールに)アタックに行けるように、しっかりそこをカバーするというところ。あとはボールを持つというところで、真ん中から両サイドの選手が余裕をもってボールを持てるようにというところ。そういうところは意識しながらやっています」

ベスト電器スタジアムでホームゲームが行われる際、広場には様々な選手の言葉が大きなボードに記されて登場する。「うまくいかなくても泥だらけになりながら粘り強く勝点を獲っていく試合も僕は美しいと思う」。これは奈良の言葉。上手く綺麗にプレーすることだけがサッカーの魅力じゃない。彼の言葉や姿を見聞きしていると改めてそう気づかせてくれる。

長谷部茂利監督も「華麗に点を取ったり、華麗に守ったりというのは、まだまだこの先上達していかなければ、そういうステージには届かないと思いますが、そこへ向けて、泥臭さも踏まえて自分たちらしかったし、1人ではなくて全員がそういうスタンスで臨んでくれている」と言うように成長過程にあるチームにとって勝つ為に重要な要素の一つである泥臭さをチームの中心で体現しているのが奈良なのだ。

「凌我と共に国立へ」。これは今の福岡の合言葉。準々決勝第1戦で大怪我を負った佐藤凌我への福岡に関わる全ての人の想いだ。第2戦で先述の井上に加え、ルキアンも負傷交代。状態が心配されるが、奈良は次のように考えている。

「聖也もそうだし、ルキアンもそうだし、(佐藤)凌我もそうだし、凌我は今年難しいですけど、聖也とかルキアンとかもしかしたら戻ってこれるかもしれないし、その時に試合がありませんじゃなくて、彼らのモチベーションになるように少しでも試合を(残して)、目標があったらいいなと思うし、それまで僕も歯を食いしばって戦い続けたい。より団結して、結束してリーグ戦も含めて1試合1試合戦っていきたいと思います」

福岡にとってまだ見ぬ新しい景色を見るべく奈良は目の前試合一つ一つにフォーカスしてチームを支えていく。


Reported by 武丸善章