背番号10がピッチに戻ってきた。
9月2日の明治安田生命J3リーグ第25節のYS横浜戦においてボランチで先発出場した富所悠。7月の第17節・松本戦以来のリーグ戦出場。先発に至っては5月の第11節・相模原戦以来と、実に14試合ぶりであった。
出場機会が限られている原因の一つは、コンディションが整わない状況に見舞われたこと。琉球で12シーズン目を迎える彼はJFL時代も含めるとこれまで332試合に出場していて、十分に体をケアしていたとしても勤続疲労が出てきてもおかしくない。何より昨年はリーグ戦34試合に出場し、ボール奪取率と走行距離はチーム内でも抜きん出ており、ゴールに直結するスペクタクル性が持ち味のイメージを覆すほど年々彼はボランチとして闘うための体へと変わっている。ゆえに対人でボールを奪い合うシーンは顕著で、試合が終われば必ず傷だらけである。その影響か、今年は一人で特別メニューをこなして調整する姿も垣間見える。
その上で、琉球のボランチは平松昇や武沢一翔、そして夏に期限付移籍で加入した岡澤昂星と若い選手が頭角を現しており、さらに金崎夢生がボランチに転向したことでポジション争いが激化したこともあり、富所は出場機会を増やせずにいた。
もちろん競争があることは自覚している。だからこそ、その悔恨の情はプレーで発散させると決めていた。それが彼のプライドであり、意思表示である。
夏場にかけてコンディションも戻り、手応えを感じていた。ゆえに「トレーニングから自分は出来るということを示しているつもりだし、コンディションも悪くない。だから(第24節の)相模原戦でメンバーに入れなかったことは切れそうになるぐらい悔しかった」と胸の内を明かした。それでも富所は臥薪嘗胆の思いを失わず、チームを勢いづかせるくさびのパスを何度となく供給し、ゴールに結びつけようとする。
「それが彼のプレー」と、ヘッドコーチ時代から富所にプレーを間近で見続けていた喜名哲裕監督は話す。「攻撃で違いが出せるのがトミ(富所)だから。背中で引っ張ってほしい」と期待する指揮官の琴線に触れ、レギュラーへの返り咲きを自らの足で果たした。
その復帰戦となった2日のYS横浜戦は0-1で敗戦し「ボールは持てていただけにもう少し前に配球したかった」と自責の念を抱く富所。しかし「フル出場できたこと。そしてコンディションも問題ない」と万全をアピールできたことをポジティブに捉え、その成功体験がまた一つ自信を掴むきっかけとなった。
昨年J3降格に遭い、今年中での昇格を義務付けられたチームの10番を背負うがゆえプレッシャーとの戦いも強いられていた。現状18位と下位に沈んでいる琉球だが、2位・富山との勝点差は未だ12ポイントと「まだまだ諦めていない。目標だけに縛られず、今は目の前の試合に全力を尽くし勝つことだけを考えて、それを積み重ねていきたいです」(富所)
仲間からも「チームを落ち着かせるところ、スイッチを入れるところの見極めが上手い」と評される富所は、備え持つ不屈の精神をチームに還元する。
Reported by 仲本兼進