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【取材ノート:福岡】福岡を支えるタフガイ。前寛之が魅せる攻撃面の進化

2023年8月21日(月)


「うまくいきませんでした」。長谷部茂利監督は試合後の記者会見で開口一番こう言った。明治安田生命J1リーグ第24節のアルビレックス新潟戦。相手の狙いとするビルドアップの前に福岡本来の前向きなボール奪取を見せる場面は少なかった。それは中盤の要である前寛之もよく理解している。

「ゲーム前に用意していたハメ方というのが上手くいかなかったというところとそういうことがあった時に中で上手く対応しきれなかったというのが、前半自分たちが上手くいかなかった要因かなと思います。本来であればファーストディフェンスに行きながら自分たちのブロックに入ってくるものは掃き出していくという守備がしたかったですし、でもブロックを作りながらある程度(ライン間に)入られるのは分かっていたので、そういった対応の後とそこに入るまでのボールの出し手のところが簡単すぎたのであれだけライン間でボールを動かされると自分たちも守備は後ろ向きになりますし、勢いよく出せないので、最初のところの守備で苦しんだというような印象を受けます」


それでも1点ビハインドの後半は反撃に出た。このままでは終われない。全てはアウェイでのリーグ戦、新潟の地で味わった屈辱を晴らすために。そして、2021年に達成したJ1でのクラブ記録となるリーグ戦6連勝に並ぶために。勝利を求めて積極的に攻撃に関わった。70分、右サイドから攻略を図るために紺野和也へ送ったスルーパス。73分、山岸祐也とルキアンの大きなワンツーで決定機になりかけた場面のスイッチを入れる楔のパス。90分、中央から崩そうと鶴野怜樹に差し込んだ楔のパス。アディショナルタイム、ゴール前に構えた山岸に送ろうとしてわずかに届かなかったロビングのパス。ラストパスはもちろんのこと、その1つ前、2つ前の攻撃のスイッチとなるパスを数多く入れているのが前。前節の横浜FC戦で鋭い楔のパスで先制点のアシストをし、2点目のスイッチを入れるスルーパスを送ったようにこの日もパスで局面の打開を図った。

「相手を見て自分がどこに立っていればいいのかというのは考えながらやっていて、(横浜FC戦は)相手が最初からプレスに来るときもありましたけど、センターバックでボールを持てる時間もあったので、前に行くこともできましたし、ボランチのどちらか1人が前に入っていくことで攻撃に厚みが増すと思っていました。そこはみんなが今後やっていきたいと思っているところですが、少しそういうシーンが多く出たのかなと思います。うちも5枚でやることがありますけれど、やはりゴール前に人数が多くて堅いので、どこかでチャレンジをしないといけない場面もありますし、それが縦パスで前に入っていくことだと思うので、(相手に守備ブロックをしっかりと築かれた場面で)点にはつながらなかったですけれど良い場面もあったと思います。これからもまたこういう相手がいますし、そういったところを崩し切れる、点につながるようなプレーを増やせるようにというか、得点につなげたいと思います。(新潟戦は)サイドからも中央からも怖い攻撃というものは少なかったなと思いますし、やっている中で距離感というものは少し遠いのかなと。もう少しコンパクトにボールに人が集まっていったり、ゴール前に結局入っていくところで人数掛けられていなかったりするので、そういった修正点はたくさんあるかなと思います」

ボールを奪う。セカンドボールを回収する。そこにはいつも背番号6がいる。読みの鋭さ、球際の強さ、的確なポジショニング。豊富な運動量をベースにプレーエリア広く、危機察知能力の高いボランチとしてボール奪取に長け、チャンスと見るやミドルシュートでゴールを狙う。ここまで攻守のバランスを意識しながらチームを支えてきた前。今シーズンはそこに加え、より中盤の組み立てに参加しながらボールを引き出し、前線へとパスを供給。ゴール前に侵入し、得点に関わろうと攻撃的なセンスを見せる場面も多くなってきた。精度の部分に課題は残すものの「8番」の要素は確実に増している。

そんな彼は、地元札幌の下部組織で育ち、プロキャリアを歩み始めると、2020年に長谷部サッカーの申し子として才能を開花させた水戸から加入。昨シーズンまでキャプテンを務め、福岡に欠かせない選手となっている。新潟戦でJ1通算100試合出場を達成。福岡で積み重ねた試合数は96。その間に福岡がJ1で戦った試合は96。つまり、リーグ戦1試合の欠場もなく、全試合に出場しているのだ。新型コロナウイルスの感染から復帰したJ2時代の2020年の9月以来、約3年近く大きな怪我なく、長期離脱のない男はまさに鉄人と言っていい。

「試合を重ねることは嬉しいことですし、まだまだ試合数を重ねていけるように頑張っていきたいと思います。自分自身が考える成長だったり、チームに求められていることをやっていくだけというか、チョイスするのは監督なので、そのチョイスに入れるようにこれからも成長できるようにやっていくだけと思います」

中村駿、城後寿、田邉草民、平塚悠知、重見柾斗、森山公弥、そして今やお馴染みとなっている井手口陽介とのボランチコンビ。それぞれの相棒の特長を引き出し、刺激を受けてより成長を遂げている前。「自分自身のプレーにフォーカスして自分を変えていく、チームを少しでも良い方向に導きたい」。福岡の「心臓」の更なる進化から目が離せない。

Reported by 武丸善章