“キックの名手”が大記録を成し遂げた。明治安田生命J3リーグ・第22節で、15位のAC長野パルセイロが3位の鹿児島ユナイテッドFCに2-1と辛勝。最終盤の90+5分、宮阪政樹が決勝弾となる直接FKを沈めた。
まるで映画のようなラストシーンだった。93分、杉井颯がペナルティエリア手前で倒され、FKを獲得。メインキッカーである宮阪政樹と安東輝がベンチに控える中、第20節・SC相模原戦で直接FKを決めた加藤弘堅が蹴るかに思われた。
しかし、シュタルフ悠紀監督はすぐさま最後の交代に出る。加藤に代わって投入されたのは宮阪。直接FKによるJ2最多得点記録を叩き出した34歳が、チームの明暗を託された。「ニアを狙う雰囲気を出しながら、ファーの壁が甘かった。(加藤)弘堅がファーに蹴って決めていたので、見返してやろうと思って蹴った」。短い助走から放たれたファーストタッチは、GKに触られながらもゴール右隅に吸い込まれた。
「あの位置のFKを蹴らせれば、右に出る選手はいない。2本あれば1本は絶対に決めると思うので、50%のチャンスだったら…。彼にとってはPKのようなものだと思うので、信じて送り出すだけだった」。そうシュタルフ監督は投入の意図を明かす。
本人にとっては、鬱憤を晴らす得点でもあった。前半戦はアンカーの位置で先発を続けたが、第18節・ガイナーレ鳥取戦以降は加藤の加入なども影響し、出場機会が限られていた。「(悔しさは)もちろんある」と噛み締め、その想いも込めての一振り。15位と苦しむチームを勝利に導いた。
直接FKによるゴールは、松本に在籍していた2019年の明治安田J1第6節・神戸戦以来、約4年半ぶり。これで全カテゴリーにおいて直接FKを決めた選手となった。さらに大卒でプロ入りして以来、12年連続での得点を記録。まさに金字塔を打ち立てた。
ちなみに同じくFKスポットに立っていた杉井は、「全然蹴りたくなかった」と本音を明かす。続けて「サッカーを見てきた上で、あんなシーンは初めて見た。シンプルにすごいなと思う」と驚嘆。誰もが緊張感に包まれるシチュエーションで、それをモノにできたのは、宮阪の技量と経験値があってこそだろう。
今季はセットプレーの作戦会議にも加わっている“バズ”。チームの頭脳としても指揮官から高い信頼を得ており、まだまだ輝いてもらわねば困る。愛称の語源であるバズライト・イヤーのように、「無限の彼方へ、さあ行くぞ!」と言わんばかりに飛躍を期待したい。
Reported by 田中紘夢