かつて大宮アルディージャに在籍した人は、選手・コーチングスタッフに関わらず、その動向は常に気にしている。いや、気になってしまうというのが正直なところだ。
7月20日、ベガルタ仙台でヘッドコーチを務めていた渋谷洋樹氏が辞任したという報が飛び込んできた。その1週間前には伊藤彰前監督が解任されていて、「シブさんならそうするだろうな」と思っていたが、まさかそこから1週間も経たないうちに大宮のヘッドコーチに就任するとは、大宮の強化部も思い切ったことをするものだと驚かされた。
だが、渋谷氏が着任した後の大宮は、明治安田生命J2リーグ第28節ツエーゲン金沢戦、第29節ブラウブリッツ秋田戦と今季初の2連勝。すべてが渋谷氏によるものと言うつもりはないが、今の大宮に一番必要な勝点をもたらしてくれた一因であることに疑いはない。
だが、渋谷氏は謙遜する。
「この2連勝は僕がどうこうというよりは、2連勝になる必然的なところがあったんじゃないかな」
第23節FC町田ゼルビア戦より5-4-1のシステムで戦っている大宮だが、その積み上げが結果として表れてきたのだと言う。
「もっと攻撃したいとか、守備のところでももっと前から行きたいとかあるけど、5-4-1を理解すれば、そんなにプレッシャーを掛けていくのは簡単ではない。これが普通なんだとみんながわかれば、こういう結果になる。やはり最後を守り切る、やられてないという自信が今はあるんじゃないかと思いますよ」
その中で、自身はチームの中で潤滑油的な役割を心掛けている。
「自分たちの攻守のイメージはわかっているので、そこを馴染ませる。僕がやっているのは、こういうことを起こしたいからこうしている、こういうことが起きないようにここにポジションを取る、そういうのを少しずつ話しているぐらいですかね」
自ら「僕はふざけたこと、面白いことばかり言っているので」と言いながら、選手との距離を縮め、時には監督の指示を噛み砕いて伝え、選手からの声を拾い上げる。例えば新戦力の1人、飯田貴敬は大宮でのデビュー戦となった第27節水戸ホーリーホック戦後、「渋谷さんに、僕はこう思ってるんですけどどうですか、みたいな話をした」と明かす。こうした関係性が金沢戦以降の飯田の躍動につながっているのは間違いない。
「僕に少しでも話をしてもらえたらいい。それでちょっとした安心を与えられる、そうした拠り所のような立場になれれば、と思います」
原崎政人監督も、「僕よりも経験も実績もある方。試合中にも判断材料を細かく伝えてくれて、(存在は)大きいです」と語る。夏のウインドウで4名の新戦力を加えた大宮だが、もしかすると渋谷氏のヘッドコーチ就任が、一番大きな補強になるかもしれない。
Reported by 土地将靖