カンッ。強い雨が降りしきるベスト電器スタジアムに乾いた音が響き渡った。2023明治安田生命J1リーグ第20節の札幌戦。63分のPK。金子拓郎(札幌)のシュートはゴールポストを叩き、ピッチの外へと流れていく。この試合の流れが大きく変わった瞬間だった。
ピンチの後にチャンスあり。1点ビハインドの状況で反撃の口火を切ったのは福岡のCBドウグラス グローリ。66分、相手のパスをカットした奈良竜樹からボールを受けると迷わず縦につけた。スピード、コース共に絶妙なスルーパスは懸命に足を伸ばす相手のDFの横をすり抜けていく。どっと沸き起こる歓声。ルキアン走る。持ち前のスプリントでボールに追いつく。瞬時にゴール前を確認し、パスを送る。待っていたのは同胞のウェリントン。冷静にゴールへと流し込んだ。ブラジル人3人の鮮やかな連携による同点ゴール。この後訪れる逆転劇への確かな序章となった。
「いつもああいう形でトライできたらいいなと思ってやっていたプレーなんですけど、ルキアンとよく話をしていて、彼はスピードがあってスペースに流れるプレーが好きなので、そこにボールを出せればと思いながら彼の動きを見ながらのプレーでした。良いボールが通ってウェリントンのゴールにつながって非常に良い連携ができてきていると思う中で、ああいう良い連携で得点できたので非常に嬉しいゴールでした。3人で喜んでいる姿をフォーカスされるかもしれませんが、チームに貢献できているということが一番嬉しいことです。自分たち3人だけではなくチーム全員が関わったからだと思います。その前の奪ったところでの井手口(陽介)が関わったり、奈良が関わったり、他の選手もあのプレーに寄与した中で生まれたプレーだと思っています」
フォア・ザ・チームの精神を大切にするグローリ自身もこの試合は様々なことが起こっていた。前半にはFKのこぼれ球を詰めて1度はゴールを揺らしたものの、VARを経てゴールは認められず。後半には果敢にボールを奪いにいこうとしたプレーでファールを犯し、またしてもVARを経て先述のPKを献上。それでもメンタルが揺らぐことはなかった。「サッカーというのはゲームの中でいろいろな感情が生まれるスポーツ」と話すように冷静な心持ちがあったからこそ、素晴らしいプレーが生まれた。
「博多の重戦車」。これはベスト電器スタジアムでグローリが紹介される際に用いられる代名詞。その名の通り、強靭なフィジカルを活かした対人の強さと空中戦の強さで福岡の守りを支え、どんな強力なストライカーが来ても「グローリなら何とかしてくれる」。そんな頼もしさを持つ男はこれまで幾度もチームのピンチを救ってきた。この試合でもそう。1失点は許したが、周りと協力しながら身体を張り、チームを鼓舞。最小失点で踏ん張り続ける原動力の一人となった。
長谷部茂利監督もCBコンビを組む奈良とともに次のように評価しながら更なる期待を掛けた。「守備面では非常に質の高い、強度も高いプレーをたくさんしてくれていましたから継続してやってもらいたいし、課題としては、攻撃のところで自分から、もしくは人から、チームがうまく守備から攻撃に繋がる、良い攻撃になる、そのように本人、もしくはその隣や前の選手ができるようにしていくことも課題だと思います。同時に、チームの課題ではありますが、そういうところでのプレー精度を上げていけば、さらに良くなるし、年齢はあまり関係なくて、年取ったから変われないわけではなくて、もう少しここからの残りのゲームで良くなっていくんじゃないかなと、期待したいです」。
今シーズンはこれまで福岡で主戦場としてきた4バックの左CBだけではなく、右CB、3CBの右など様々なポジションにもチャレンジする中で、これまで見せてきた守備の強さだけではなく、居残り練習でも鍛錬を重ね、札幌戦の同点ゴールにつながったスルーパスが示すように攻撃に関わる部分でも進化を見せようとしている。
ピッチ上では鬼の形相で戦う男も、ひとたびピッチを離れると満面の笑みを見せ、フレンドリーな人柄でサポーターに愛されている。それはメディアに対しても同じ。取材が終わってお礼を言うと日本語で「どういたしまして」と言葉を残し、笑顔でサムズアップをしながらその場を爽やかに去っていく。そんな彼も今シーズンで福岡在籍4年目。第19節のセレッソ大阪戦でJリーグ通算100試合出場を達成し、札幌戦の前にはセレモニーが行われた。
「まず何より嬉しい気持ちでいっぱいですね。100試合というのは一つの勲章だと思いますし、アビスパのユニフォームを着て4年間をかけてこのJリーグで達成した数字ということで、その中で自分としてはチームになんとか貢献しよう。そんな想いでプレーし続けてはいるんですが、やはりそれ以上にクラブ、チームスタッフ、チームメイト、サポーターの皆さんにすごく温かく受け入れていただいていて、良くしてもらっているなと。そんな想いがあります。それがやはりさらに自分にとって自分のプレーを良くしていこうというモチベーションにもなってきているのかなという気がします。福岡に関してはすごく素晴らしい街で非常に安全に過ごせる。そんな街で非常に気に入っていますし、4年という時間ですけども思い出すとまるで昨日、日本に来たようなそんな思いもある中で、もう4年も経ったのかというふうなところなんですけども、時間が経つのが早いというのはそれだけ自分にとって良い時間を過ごせてこれたからこそ、それだけ4年経ったのが非常にあっという間。そんな早い時間が過ぎたのかなと思います」
福岡を愛し、福岡に愛される男。“助っ人”ということを忘れてしまうほど紺色に染まったグローリとの日々をこれからも大切に歩んでいきたい。
Reported by 武丸善章
ピンチの後にチャンスあり。1点ビハインドの状況で反撃の口火を切ったのは福岡のCBドウグラス グローリ。66分、相手のパスをカットした奈良竜樹からボールを受けると迷わず縦につけた。スピード、コース共に絶妙なスルーパスは懸命に足を伸ばす相手のDFの横をすり抜けていく。どっと沸き起こる歓声。ルキアン走る。持ち前のスプリントでボールに追いつく。瞬時にゴール前を確認し、パスを送る。待っていたのは同胞のウェリントン。冷静にゴールへと流し込んだ。ブラジル人3人の鮮やかな連携による同点ゴール。この後訪れる逆転劇への確かな序章となった。
「いつもああいう形でトライできたらいいなと思ってやっていたプレーなんですけど、ルキアンとよく話をしていて、彼はスピードがあってスペースに流れるプレーが好きなので、そこにボールを出せればと思いながら彼の動きを見ながらのプレーでした。良いボールが通ってウェリントンのゴールにつながって非常に良い連携ができてきていると思う中で、ああいう良い連携で得点できたので非常に嬉しいゴールでした。3人で喜んでいる姿をフォーカスされるかもしれませんが、チームに貢献できているということが一番嬉しいことです。自分たち3人だけではなくチーム全員が関わったからだと思います。その前の奪ったところでの井手口(陽介)が関わったり、奈良が関わったり、他の選手もあのプレーに寄与した中で生まれたプレーだと思っています」
フォア・ザ・チームの精神を大切にするグローリ自身もこの試合は様々なことが起こっていた。前半にはFKのこぼれ球を詰めて1度はゴールを揺らしたものの、VARを経てゴールは認められず。後半には果敢にボールを奪いにいこうとしたプレーでファールを犯し、またしてもVARを経て先述のPKを献上。それでもメンタルが揺らぐことはなかった。「サッカーというのはゲームの中でいろいろな感情が生まれるスポーツ」と話すように冷静な心持ちがあったからこそ、素晴らしいプレーが生まれた。
「博多の重戦車」。これはベスト電器スタジアムでグローリが紹介される際に用いられる代名詞。その名の通り、強靭なフィジカルを活かした対人の強さと空中戦の強さで福岡の守りを支え、どんな強力なストライカーが来ても「グローリなら何とかしてくれる」。そんな頼もしさを持つ男はこれまで幾度もチームのピンチを救ってきた。この試合でもそう。1失点は許したが、周りと協力しながら身体を張り、チームを鼓舞。最小失点で踏ん張り続ける原動力の一人となった。
長谷部茂利監督もCBコンビを組む奈良とともに次のように評価しながら更なる期待を掛けた。「守備面では非常に質の高い、強度も高いプレーをたくさんしてくれていましたから継続してやってもらいたいし、課題としては、攻撃のところで自分から、もしくは人から、チームがうまく守備から攻撃に繋がる、良い攻撃になる、そのように本人、もしくはその隣や前の選手ができるようにしていくことも課題だと思います。同時に、チームの課題ではありますが、そういうところでのプレー精度を上げていけば、さらに良くなるし、年齢はあまり関係なくて、年取ったから変われないわけではなくて、もう少しここからの残りのゲームで良くなっていくんじゃないかなと、期待したいです」。
今シーズンはこれまで福岡で主戦場としてきた4バックの左CBだけではなく、右CB、3CBの右など様々なポジションにもチャレンジする中で、これまで見せてきた守備の強さだけではなく、居残り練習でも鍛錬を重ね、札幌戦の同点ゴールにつながったスルーパスが示すように攻撃に関わる部分でも進化を見せようとしている。
ピッチ上では鬼の形相で戦う男も、ひとたびピッチを離れると満面の笑みを見せ、フレンドリーな人柄でサポーターに愛されている。それはメディアに対しても同じ。取材が終わってお礼を言うと日本語で「どういたしまして」と言葉を残し、笑顔でサムズアップをしながらその場を爽やかに去っていく。そんな彼も今シーズンで福岡在籍4年目。第19節のセレッソ大阪戦でJリーグ通算100試合出場を達成し、札幌戦の前にはセレモニーが行われた。
「まず何より嬉しい気持ちでいっぱいですね。100試合というのは一つの勲章だと思いますし、アビスパのユニフォームを着て4年間をかけてこのJリーグで達成した数字ということで、その中で自分としてはチームになんとか貢献しよう。そんな想いでプレーし続けてはいるんですが、やはりそれ以上にクラブ、チームスタッフ、チームメイト、サポーターの皆さんにすごく温かく受け入れていただいていて、良くしてもらっているなと。そんな想いがあります。それがやはりさらに自分にとって自分のプレーを良くしていこうというモチベーションにもなってきているのかなという気がします。福岡に関してはすごく素晴らしい街で非常に安全に過ごせる。そんな街で非常に気に入っていますし、4年という時間ですけども思い出すとまるで昨日、日本に来たようなそんな思いもある中で、もう4年も経ったのかというふうなところなんですけども、時間が経つのが早いというのはそれだけ自分にとって良い時間を過ごせてこれたからこそ、それだけ4年経ったのが非常にあっという間。そんな早い時間が過ぎたのかなと思います」
福岡を愛し、福岡に愛される男。“助っ人”ということを忘れてしまうほど紺色に染まったグローリとの日々をこれからも大切に歩んでいきたい。
Reported by 武丸善章