明治安田生命J3第14節・テゲバジャーロ宮崎戦で、Jリーグ通算100試合出場を達成したFC今治のMF山田貴文が、初めてJリーガーとしてピッチに立ったのは3年前、2020シーズンのことだ。
当時、すでに28歳。“遅咲き”であるのには理由があった。愛媛県出身の山田は、宮崎県の日章学園をへて進んだ大阪体育大学を最後に、一度はサッカーに区切りを付ける考えだった。警察官になろうと思ったからだ。
しかし中学、高校時代を過ごした縁のある宮崎のJFLチーム、ホンダロックSCで現役を続けることになり、2018年に今治に加入。翌シーズンのJ3昇格に大いに貢献した。
それからの2年半でJリーグ100試合出場を達成した山田は、「さまざまな監督が使い続けてくれたおかげ」と素直に感謝した。その言葉通り、2020シーズンのスペイン人指揮官、リュイス プラナグマ監督にはじまり、市立船橋高校を日本一に導き、ザスパクサツ群馬をJ2に昇格させた布啓一郎監督、今治の核をなす岡田メソッドの編纂において中心的な役割を果たした1人、橋川和晃監督、そして開幕からJ2昇格争いを繰り広げている今シーズンの髙木理己監督と、ここまでJ3を舞台に4人の監督の下でプレーする。
岡田メソッドという柱はあるが、その表現の仕方は監督によりさまざまだ。だからこそ、いろいろなフォーメーション、ポジションに入っても、しっかり役割を果たす山田の特徴が際立つ。宮崎戦では1トップ2シャドーの一角でプレーしたが、本来は4-4-2の右サイドハーフが主戦場だ。
だが、山田はポジションにとらわれない。昨シーズンの一時期は、チーム状況に応じてボランチとしてプレーし、チームを支えた。まさに臨機応変。サッカーを熟知し、確かな技術があるからこそ、的確にプレーできるといえよう。
髙木監督は、そんな山田を「チームをつなぎ、ピッチ内で何をすべきか決断して、仲間を巻き込んでいけるプレーヤー」と評する。事実、前線でトライアングルを形成するのはドゥドゥ、マルクス ヴィニシウスのブラジル人で、「日本人とはちょっと感覚が違う2人がプレーしやすいように、自分がポジションを取る」ことを心掛け、攻撃はもちろん、守備でもチームがうまくいくように力を注ぐ。
現在、チームは明確なフォーメーションを設定せず、4バックと3バックを併用して戦う。求めに応じて、プレッシャーの掛け方を自ら判断しながら調整できる山田のような存在があるからこそ可能な柔軟な戦い方だ。
混戦の昇格争いが続く今季のJ3において、チームは勝点の取りこぼしは許されず、着実にポイントを積み上げていかなければならない。「重圧は自分たちのようなベテラン選手が引き受ければいい。若い選手たちには伸び伸びと、思う存分プレーしてほしい」という山田のような存在が、いかに心強いか。そのことをかみ締めながら、チームはここから夏場のタフな戦いに臨む。
Reported by 大中祐二