流石の一言に尽きる。そんなゴールだった。2023明治安田生命J1リーグ第16節のG大阪戦、17分のコーナーキック。自分にマークがついていないと気付いた山岸祐也はすぐさま両手を広げてボールを呼び込んだ。
見えたのはゴール前にぽっかりと空いたスペース。そこに迷わず走り込む。キッカーの中村駿からアウトスイングの正確なボールが届くと、タイミング良く、確実に頭で合わせた。これがクラブJ1通算400ゴール。アビスパ福岡に新たな歴史が刻まれた瞬間だった。
「(J1通算400ゴールは)意識はしてないですけれど、やっぱりメディアさんだったり、チームの中でも『(次取れば)400ゴールらしいよ』という話は出ていました。今までアビスパで昔からいろんな選手が築いてきた歴史というところの節目の400ゴールというところを自分が決められて、その名前が載る、これからも残っていくというのは嬉しいし、すごい光栄なことです」
2016年にJ2の群馬でJリーガーとしてのキャリアをスタートさせ、その後、岐阜と山形でプレー。2020年の10月にJ1でプレーしたいという強い思いを持って、当時J1昇格争いをしていた福岡に移籍してきて今年で4シーズン目。試合を重ねるごとに、年数を重ねるごとにチームと共にJ1のピッチで成長し、上手さが増している万能型ストライカーだ。守備でのハードワークも欠かすことなく、相手に囲まれながらでもしなやかな体がもたらすもはや芸術的と言っていい胸トラップと足元の技術を活かしたボールを収める能力の高さ。そして、「人に使われて、人を使うのが自分の特長」と自身が言うように味方との巧みな連携でゴールを積み重ね、昨シーズン福岡で1996年以来となるJ1での2桁ゴールを達成。プレーの力強さと的確なポジショニングで決定力が増している今シーズンは、足でも頭でも強く、正確に枠を捉えやすい様々なフィニッシュワークの形を自ら作り出し、ここまでリーグ戦で7ゴールを挙げて昨シーズンを超えるペースで得点を量産している。
試合ごとに自身のプレーを振り返りながらサッカーノートを記して頭の中を整理している彼はいつも自然体で思考は常にポジティブ。試合に勝とうが負けようが感情的になり過ぎることなく、試合直後のミックスゾーンでも冷静に、そして的確に自分なりの考えを言語化してくれる。「福岡の人たちと共に自分も成長したい」。そんな想いが込められた言葉はいつも多くの人の心を揺さぶり、共感を呼ぶ。後半アディショナルタイムに2ゴールを奪って逆転勝利に導いた第5節の湘南戦が象徴するように、ここぞという時に山岸は仕事をしてくれる。そんな彼の言葉とプレーに魅了され、福岡に関わる人々はいつしか「エース」と呼ぶようになった。だからこそ、このメモリアルゴールを山岸が挙げたのも単なる偶然ではないような気がして本人に聞いてみると次のような答えが返ってきた。
「言霊と言うんですかね。俺、結構言って自分にプレッシャー掛けるじゃないけど、そういう選手になっていかなければいけないと思うし、どんどん自分にプレッシャー掛けて、自分に期待してやっていっているから」
そんなエースに対し、長谷部茂利監督も全幅の信頼を置きながら更なる期待を掛けている。
「評価は高いです。チームトップのスコアラーですし、群を抜くところ、その手前にいると思います。後半にコンビネーションからキーパーと1対1気味になって、グラウンダーで狙ってポストの外にずれてしまったんですけれども、あれを決められるようになったら群を抜く、そこに位置すると思います。その手前にいると思いますし、彼自身も分かっていると思います。さらに質を上げられるようにと思っています。いろいろと考えているし、周りとのコミュニケーションも上手ですから。当然今日もゴールを取って期待通りというところもありますし、あるいはもう1点取れていたら期待通りなのかという想いもありますが、そこに行けるように磨いてもらいたいなと思います」
もちろん、山岸も自覚している。逆転負けの悔しさを押し殺しながら冷静に自身の課題を話してくれた。
「個人の入り方だったり、マークの外し方だったり、足を止めないでゴール前で動き続けることだったり、その回数を増やしていくというところを求めつつ、その1本をしっかり決め切れるような選手になる。そうすれば、個人の評価も上がって、チームも勝てるようになって、良い循環が生まれてくると思います。(ゴールが)入る時は入るし、入らない時は入らないじゃないけれど、そういう時もあると思うけれど、ただ、その回数を増やしたり、1個1個の質だったり、本当に上のトップトップの選手はそこで決め切ったりするし、そういう選手にならなければいけないと思う」
名実ともにチームを引っ張るエース。今シーズンの目標は昨シーズンを超えるクラブ新記録の11ゴール以上。「目標、記録というのをどんどん塗り替えて、どんどん強くなっていかなければいけない」。山岸は強い想いを持って福岡と共に成長の歩みを続けている。
Reported by 武丸善章