5月25日(木)、神戸市内のホテルでアンドレス イニエスタ(39)の退団会見が行われた。登壇者は楽天ヴィッセル神戸株式会社代表取締役会長の三木谷浩史(楽天グループ株式会社代表取締役会長兼社長)とイニエスタの2人。詰めかけたメディアの数は記者やテレビクルーなどを合わせて計70名。海外メディアの姿も見られるなど、改めてイニエスタの偉大さがわかる会見となった。
ヴィッセル神戸公式YouTubeチャンネルでもライブ配信されたこの退団会見は約35分。冒頭の特別映像の後、三木谷会長がこの件に関して口を開いた。その中で印象に残ったのは、ヴィッセル神戸やJリーグへの貢献度だ。
「思い起こせば2018年の5月、イニエスタ選手がFCバルセロナを離れるという報道を受けて、彼にヴィッセル神戸の選手としてJリーグを世界のトップリーグにしていきたいという話をさせていただきました。大きな決断をしてくれまして、そこから5年間、ヴィッセル神戸の一員として、Jリーグのメインのプレーヤーとして日本のサッカー界に多大なる歴史的な貢献をしてくれたのではないかと思っております」
まったくその通りである。
振り返ると、2018年にイニエスタがヴィッセル神戸に加入するという噂が出た際、おそらく多くの方々は「それはない」と思ったのではないだろうか。FIFAワールドカップに4度出場し、10年の南アフリカ大会の決勝では自らのゴールで母国スペイン代表を初優勝へと導いた世界の名手だったからである。そんな選手が日本を選ぶ? まさか来るわけがないというのが筆者の本音だった。
だが、来てくれた。そして日本のサッカーファンが“生”で世界最高峰の技術を観戦できる機会を与えてくれた。そこにはもう感謝しかない。しかも神戸担当記者としては、2019年度の天皇杯では初タイトルをもたらし、2020年のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)では初出場でベスト4の躍進という心躍る経験もさせていただいた。
だが、このACLで大ケガを追ったイニエスタは、選手生命に関わる大手術を決断し、長いリバビリ生活を送ることになる。そして、その困難を乗り越えて再びJリーグに戻ってきた分、現役選手としてピッチに立つことにこだわったのかもしれない。会見では目頭を熱くさせながら退団理由を語った。
「ずっと自分はここ(神戸)で引退する姿を想像していました。しかし、物事は希望や願望通りにはいかないものです。まだまだプレーを続け、ピッチで戦い続けたいという思いがあります。この数ヶ月間も激しいトレーニングを重ね、試合に出てチームに貢献する準備はできているという感覚でやってきました。しかし、それぞれの歩む道が分かれはじめ、監督の優先順位も違うところにあるという風に感じられはじめました。ただ、それが自分に与えられた現実であり、リスペクトをもってその現実を受け入れました。最終的には自分の競技面での現実と、自分がプレーし続けることに対して感じている情熱を掛け合わせた結果、ここを去ることがベストの決断だということをクラブと話し合いながら決めました」
日本でのラストプレーは7月1日のホーム札幌戦(明治安田J1第19節)。彼がピッチに立ち、最後にどんなプレーを見せてくれるのか注目したい。
Reported by 白井邦彦