最後まで集中力は切れなかった。2023明治安田生命J1リーグ第14節の浦和戦。アジア王者に堂々と渡り合ってのドローにもGK村上昌謙は悔しさを露わにした。
「勝ちたかったです。ただ、それだけだと思います。僕らが求めているのは引き分けではないので、勝点3を取るというのが。ましてやホームですし、そういったところでチャンスはあったので、あともう1個というところだったと思います」
「村神様」。福岡に関わる人にとっては彼の愛称としてお馴染みの言葉。これまでチームのピンチを幾度となくスーパーセーブで救ってきた。この試合でもそう。75分にカウンターを受け、大久保智明に放たれたシュートもアディショナルタイムの馬渡和彰の鋭いシュートも見事なシュートストップで抑え、2試合連続の無失点に大きく貢献した。
「もちろん、最後のところで自分が止めましたけど、それまでに全員がスプリントで戻って体を張った部分があったからこそ、ああいう形になっているので、僕一人ではなく、チーム全体でというところが良かった」
いつもチームのことを強く意識しながらプレーする彼の最大の特長はシュートストップの能力の高さ。そんなGKとしてのプレーに加えて人間性の素晴らしさもサポーターに愛されている所以だ。大きな声でチームを鼓舞する熱さを持ちながらサポーターに対してはもちろん、相手選手や審判、ボールパーソン等どんな立場の人に対しても笑顔で明るくコミュニケーションを取り、紳士的な振る舞いを見せる。
以前、そのことを尋ねるとこのように自身の考えを教えてくれた。「まず前提として、レフェリーや周りの方たちを敵だとは思っていませんし、良い試合をするための良いパートナーだと思いますし、そこのリスペクトをまずは忘れてはいけないと僕は思っています。それはもちろん相手選手も同じで、故意に傷つけたり、いろんな発言というところで相手にとって不快な思いをさせないということですね。させるつもりはなくてもしてしまうこともあると思うので、やはりリスペクトのところは忘れないようにしています。サッカーは紳士のスポーツだと思っているので、良い試合をするためには、そういったところを排除していくことが一番大事かなと思います。もちろん熱くなってしまうことは僕自身にもたくさんあるんですけれど、やはり相手へのリスペクトは大事にしていかないといけないと思っています。それに、今は僕たちがプレーしていますけれども、今見てくれている子どもたちや、高校年代の子どもたちが、これからアビスパのエンブレムを背負って戦ってくれる子どもたちだと思うので、そういった子どもたちにアビスパでプレーしたいと思ってもらえるようにするのが僕たちの役割の一つだと思います。ありがたいことに、僕たちは表現する場所をいただいているので、そういったところでの振る舞いというのはすごく大事になってくると思います。そういったところを僕自身は意識しています」
福岡在籍4年目となる村上は今シーズンここまでリーグ戦で5試合に先発。9試合に出場している永石拓海と激しくスタメンを争っている。
「今回は僕が出ましたけど、次は僕ではなくてナガ(永石)が出るかもしれない。お互いに高め合いながらお互いに良いところがありますし、そういったところを練習から見せて、常にレギュラーが決まっていない状態でどっちが出ても良いというのは多分長谷部監督は考えていると思います。ただ、その中で(福岡には)キーパー4人いますから4人とも、(山ノ井)拓己もサカ(坂田大樹)も頑張っていますし、4人で一つのゴールを守っているという意識があります。キーパーって残酷なポジションですけど、それ以上にファミリーというかお互いにリスペクトし合いながらできていて、他のキーパー3人とも後輩ですけど尊敬していますし、だからこそキーパーで出たからには、自分が出たからには無失点で終わりたいと思うし、アビスパのキーパーの価値を高めるためにやっています。もっと良いキーパーになるためにもっと上に行きたいです。今の現状で満足してはいけなくて、もっともっと上に全て分野で上手くなりたいですし、もっと上に行きたい。その向上心がなかったら選手をやるべきではないと僕は考えているので全てのところ向上させたいと思います」
最後尾からチームを支える守護神たちが持つ決して失われることない強い絆。GKチーム4人で切磋琢磨しながら村上はより高みを目指している。
Reported by 武丸善章