当然、納得できない。勝利しか求めていない特別な試合でスコアレスドロー。試合終了のホイッスルが鳴った瞬間、ベスト電器スタジアムのゴール裏から大きなブーイングが飛んだ。アビスパ福岡が絶対に勝たなければいけない相手。ましてやここはホーム“博多の森”。今の順位や置かれているチーム状況など関係ない。それが意地とプライドをかけた九州ダービーなのだ。
ただ、勘違いをしてはいけないのは、このブーイングは決してチームを蔑むものではないということ。勝てなかった悔しさ、もっとやれるだろうと期待するチームへの鼓舞。サポーターのそんな強い想いを表すものだった。
「ファン、サポーターにこれだけのスタジアム、こんな舞台を用意してもらったのに点数を1点も取れないという申し訳なさと、少し恥ずかしささえ覚えました」
長谷部茂利監督がそんな想いを抱いた2023明治安田生命J1リーグ第13節鳥栖戦のターニングポイントは前半アディショナルタイム。相手の長沼洋一が退場になったことだ。これで数的優位になり、ボール保持の時間が長くなった中でチームの真価が問われた。
これまで築き上げてきた堅守を維持しながら得点力アップを目指してロングボールだけに頼ることなく、後方からショートパスも使い、チームとして意図的にボールを動かしてより多くゴールに迫ることにチャレンジしているのが今シーズンの福岡。
前節の広島戦の前半の戦いぶりが象徴するようにこれまでの試合でもアタッキングサードに意図的にボールを運んでチャンスを作るシーンは昨シーズンまでと比べて格段に増え、ゴールも順調に積み重ねている。(第13節終了時【2022年】10ゴール【2023年】15ゴール)
だが、引かれた相手にはなかなかその力を発揮できない。「うちが守備のチームだったということを含めてトライしている最中」と前寛之が言うようにこれまで非保持が多かったチームにおいてまだそういった状況下でゴールを奪い切る力は兼ね備わっていない。
「技術的な未熟さ、私自身の提示の反映のできてなさというか、そこが足りないと思います。当然、簡単にプレーの質と言ってしまうとそれで終わりなんですけれども、剥がすプレーであったり、外すプレーであったり、背後、手前、いろんなプレーが組み合わさるのがこの競技です。その競技の大事なところ、ボールがあってグループでゴールにボールを入れていくという作業があまり上手ではないですね」(長谷部監督)
ゴールをこじ開けるのは、サッカーにおいて一番難しい作業。相手がゴール前を固めてくればなおさらだ。求められるのはアタッキングサードでのプレーの質の向上と崩しのアイデアを増やすこと。個人としても、チームとしてもそれをより高めていかなければならないことは選手たちもよく分かっている。
「クロスを上げるのではなくて中を使って、外を使って、外見せて、中見せて、いろんな工夫をしながらやっていかないと勝てないと思います。それはチームとしての戦術であって、個人としては引いた相手や守りに入った相手を個人の違いだけで崩せたりというところを作っていけたら」とエースストライカーの山岸祐也は言い、攻撃のタクトを振るう紺野和也は「クロスとかは一つの攻撃の形になってきていると思うんですけど、そういうもうひとつペナルティエリア内に入っていく3人目(の動き)とかはなかなか試合で出せていないので、そういうのも増やしていければ、よりクロスのほうも活きてくると思います」と考えを語った。
「チームとして絵を合わせていくこと」。長谷部監督が発する言葉はもちろん、口で言うほど簡単なことではないが、J1の高いレベル中でこの壁を乗り越えた時、より高みに立つことができる。それがきっと福岡の目指すJ1定着、強豪クラブになる為の礎になるはずだ。着実に成長を歩みながらもまだまだ発展途上のチーム。挑戦は続いていく。
Reported by 武丸善章