今シーズン初めて1万人を超える観客が詰めかけたベスト電器スタジアム。この日、福岡の街で行われた「博多どんたく港まつり」と同じように熱気に包まれた“博多の森”でアビスパ福岡に新たなスターが誕生した。
その名はボランチに入った福岡大学在学中の4年生、来シーズンの加入が内定している現在特別指定選手の重見柾斗。2023明治安田生命J1リーグ第11節FC東京戦の前半アディショナルタイム、スルーパスで魅せた。前嶋洋太からパスを受けると、視界に入ったのは福岡大学の1学年先輩であるルーキーの鶴野怜樹だった。「懐かしさを感じるパス」(鶴野)。柔らかいタッチから優しい浮き球のパスはゴールにはつながらなかったが、“福大ホットライン”が開通した瞬間だった。足元の技術もさることながら目を引くのは認知と判断の能力の高さ。「プロは(ボールが)来て考えるのでは遅いので、来る前に何個か(次のプレーへの)選択肢を持つということは常に意識している」と冷静に語るように素早く中間ポジションをとってボールを受けると、捌きの上手さでチームの攻撃にリズムを与え、チャンスと見るやゴール前に飛び出していく。
守備でも魅せた。中盤を司るボランチの前寛之と同様に危険となり得るポジションにいつもいるのが重見。スッと体を入れ、171cmと小柄ながらも球際の激しさ、粘り強さを見せてボールを刈り取るプレーも魅力の一つだ。そして、何よりそれを支えているのは豊富な運動量。リーグ戦初先発でフル出場を果たしたこの試合でチームナンバーワンの走行距離、チームトップタイのスプリント数を記録。怪我人が多く苦しい台所事情のチームを救い、リーグ戦4試合ぶりの勝利に大きく貢献した。
「本人は納得していないプレーも何回かあったと思いますが、私の中では十分やれたと思っています。やれることも分かっていた中でスタメンで出場させましたので、そういう意味では評価は良いです。良くやってくれました」と長谷部茂利監督が高く評価すればダブルボランチを組む前は「ボールを触ることで面白いプレーをできますし、怖がらずボールを受けれますし、攻守において運動量というのも豊富なので、今日も体は大きくないですけど、ボールを取る瞬間は何個もありましたし、運動量を活かして攻守にプレーするところが彼の良さ」と評する。サポーターもリーグデビュー戦とは思えない落ち着きでワクワク感を与えてくれる彼のプレーに魅了された。
だが、本人は全く満足していない。「(この試合、自分の中では)100点中、60点です。90分間走って戦えたというところは良かったんですけど、前半何本か入れ替わってシュートを打たれる場面があったり、後半の途中で3回ぐらい連続で自分のところでミスが起きたので、そういうところをもっと修正してゴールに関わっていきたいと思います。正直、課題は全てで、全てのレベルを上げていかないといけないと思っているので、普段の練習から良い環境でやらせてもらっているので、いろんな選手から吸収して成長していきたいです」。
攻守に存在感を見せる「ボックストゥボックス」のボランチは日本代表で活躍する守田英正や田中碧を意識しながら研鑽を積んでいる。福岡の「心臓」になり得る背番号30の中盤でのこれからの輝きに目が離せない。
Reported by 武丸善章