絶対に諦めない。佐藤凌我はピッチに立った瞬間、猟犬の如く猛然とボールを追いかけた。ビハインドの展開となった2023明治安田生命J1リーグ第10節の川崎フロンターレ戦。「今日の形で言うと、一番前に入ってプレッシャーをかけなくてはならない、つまり走らなくてはいけない、速く、連続で。その守備のところと攻撃に転ずるところ、その両方が必要だったので、彼が適任だと思って早めに出しました」。長谷部茂利監督は点を取るためのファーストチョイスとして佐藤を送り出した。
そして85分、福岡にとって希望のゴールが生まれる。紺野和也のクロスを頭で捉えたのは佐藤だった。クリーンヒットせずシュートとはならなかったが、そのボールを鶴野怜樹が押し込み、ホームのベスト電器スタジアムは沸いた。
注目してほしいのはそのゴールの約15秒前のシーン。鶴野のパスを受けた佐藤は左足でシュートを放ったが、相手GKのセーブに遭い、ゴールは決まらず。ただ、ここでプレーを切らさなかった。猛然とボールを取り返しに相手に立ち向かう。「自分のミスはしっかりと取り返すという気持ちで取り返しに行きました」と振り返るようにすぐさま、こぼれ球をマイボールにし、味方に渡して自身は再びゴール前へ。だからこそ、あのアシストが生まれた。
そうやって得点に絡んでいる彼も苦悩を抱えている。「前(FW)の選手で点を取ってないのは自分だけだと思いますが、そこの期待というか、それを求められてこのチームに来ましたし、それに応えられていない現状がなかなか自分自身歯痒い部分もある」。J2の東京ヴェルディでルーキーから2年連続2桁ゴールを挙げ、自分の可能性に挑戦したいという思いで地元のJ1の福岡に帰ってきた中でここまで公式戦ノーゴール。
だが、同じく途中出場でゴールを挙げた鶴野とともに「もちろんトレーニングからハツラツとしていますし、おそらく、自分自身の『出てやるんだ』という想いに通じていると思うんですけれど、チームに良い影響を与えているということも見てとれるので、少し早めに使ったつもりです。もう少し早くなのか最初からなのか分かりませんが、いずれにしても期待はしています。次節以降も、得点に絡めるプレー、ボールを奪うためのプレー、そういうプレーを期待してます」と長谷部監督からの評価も高い佐藤。攻守にハードワークを怠ることなく、首を多く振り、周りの状況を常に把握。味方がパスを出したい、サポートしてほしいタイミングやポジションにいつもいるのが佐藤。だからこそチームの潤滑油になるべく、本職のセンターフォワードに限らず様々なポジションで起用され、チームの攻撃にリズムを生み出す効果的なプレーを見せ続けている。
「質の部分だと思うので、自分のシュート練習とかそういうところで上げていくしかないと思います。1つ(ゴールを)取れれば気持ち的に変わるかなと思います。ただ、焦りすぎずに自分のやるべきことをしっかりとやっていきたいと思います」
ゴールを取れない悔しさを持ちつつも焦ることなく自分のやるべきことに徹する佐藤。そんな頑張る姿をサポーターもしっかりと見ているからこそ、こう想っている。「凌我は絶対に点を取れる。絶対に報われる」と。福岡のみんなが地元の星である佐藤のゴールを待っている。
Reported by 武丸善章