シーズン開幕前、AC長野パルセイロが掲げた補強方針の一つに「クオリティの高い選手を低コストで獲得すること」があった。4月23日に行われた長野県サッカー選手権大会準決勝・松本大学戦(○3-0)。今季公式戦初先発を果たした2人が、そのクオリティの高さを垣間見せた。
直近の明治安田生命J3リーグ第7節・SC相模原戦からスタメン7人を入れ替えて臨んだ一戦。そのうち6人が初先発となり、とりわけ異彩を放ったのが原田虹輝(写真)と佐古真礼の2人だ。互いに上位カテゴリーの川崎フロンターレと東京ヴェルディから育成型期限付き移籍で加入し、クオリティを示すことを期待されていたが、ここまでのリーグ戦では出場機会が限られていた。その鬱憤を晴らすかのように、この日はカップ戦の舞台で躍動した。
まずは原田虹輝だ。守備時は右ウイングバック、攻撃時はダブルボランチの一角で出場。守備では昨季から向上している対人能力に加え、「見かけによらずスピードもある」とシュタルフ悠紀監督は話し、松本大学のスピードある左サイドハーフ・村上慧斗らへの対応を託された。また、攻撃では「ボールを持ったときに良いプレーをする選手」(シュタルフ監督)であり、いわゆる“違い”を生むことが期待されていた。
結果からすれば、その両面で一定以上のパフォーマンスを示したと言える。守備では右センターバックの池ヶ谷颯斗と連携しつつ、相手の左サイドの攻撃をシャットアウト。攻撃から守備へのポジション変更時も、素早いトランジションで穴を作らず、無失点に貢献した。
攻撃ではパスを引き出す回数がやや少なかったが、ボールを受ければ積極的に縦パスを差し込むなど、前への選択が多く見られた。54分には髙窪健人にボールを預けると、そのままオーバーラップ。髙窪からの落としを受けた安東輝のスルーパスに抜け出し、クロスで決定機を生んだ。56分にも低弾道のサイドチェンジでチャンスを作るなど、随所にクオリティを示した。
66分にはアンカーにポジションを移し、「右にも左にも自由に顔が出せるようになった」。より広範囲にボールを引き出し、パス&ゴーの動きでゴール前へ迫る。93分には山中麗央の横パスを受け、ペナルティエリア手前からミドルシュート。惜しくも右に外れたが、最後まで得点を狙い続けた。シュート数はチーム最多タイの4本。「決めなければいけなかった」と反省の弁を述べたが、それだけゴール前に顔を出していたと言うことだ。
原田はこの試合だけで右ウイングバック、ダブルボランチの一角、アンカーと3つのポジションをこなした。そのユーティリティ性については「たまに頭が混乱することもあるが、自分の一つの強みではある。どこで出ても良いパフォーマンスができるようになりたい」と前を向いた。
そして原田と同様に、攻守で存在感を示したのが佐古真礼だ。左センターバックに入り、得意のキックでチャンスを演出。21分には自陣左サイドから中央にロングフィードを送り、抜け出した近藤貴司がGKとの1対1を迎えたが、シュートは打てず。50分にも同サイドで高い位置を取った藤森亮志に浮き玉のパスを送り、決定機に繋げた。
さらに193cmの長身を生かし、セットプレーでも見せる。18分と57分には安東のCKをファーで折り返すなど、高さを発揮。「ニアが一つの狙いだったが、オプションとしてファーに逃げることもあった」と、状況に応じてポジションを移した。そして63分、安東のCKを今度はニアで豪快に合わせ、ネットを揺らす。藤枝MYFCに在籍していた2021年11月の明治安田生命J3リーグ第26節・ガイナーレ鳥取戦以来、約1年半ぶりのゴールとなった。
守備面でも「(失点)ゼロで終えられたのは大きな成果だった」。持ち前の高さを生かして空中戦で競り勝ち、地上戦でもリーチを生かしたスライディングなどでボールを奪う。松本大学は長野のアンカー脇を狙ってきたが、そこを突かれようとも佐古が縦ズレして潰し切った。
「チームとしては公式戦4試合連続のクリーンシートで、かなり自信を持っている」。佐古はその4試合中3試合に出場しており、連続無失点の立役者とも言える。リーグ戦ではクローザーとしての役割が続いているが、控えに甘んじるつもりはないことをカップ戦の舞台で強調した。
格下が相手ではあったが、原田と佐古はそのクオリティの高さを証明した。そして、クオリティを備えた若手はこの2人だけではない。同じく育成型期限付き移籍で浦和レッズから加わった木原励、横浜F・マリノスから加わった西田勇祐も、出番はなくともトレーニングからポテンシャルを表している。リーグ制覇を狙う長野にとって、高基準を備える彼らの台頭は必要不可欠。今回の原田と佐古の活躍は、その片鱗を見たかのように感じられた。
Reported by 田中紘夢