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【取材ノート:名古屋】名古屋グランパス四季折々:チームのために、それから自分のために。快進撃の陰に、酒井宣福の献身

2023年4月20日(木)


絶好調を維持する名古屋において、酒井宣福の隠れた貢献度はもっと評価されるべきだと思う。ここまでの出場機会はJリーグYBCルヴァンカップが主で、リーグ戦では途中交代で試合を引き継ぐことがほとんど。しかしカップ4戦4得点は大会得点ランクトップであり、その意味では“隠れた”と言わなくても十分な貢献が認められると言っていい。ただ、酒井は決してそれだけの男でもない。

名古屋の背番号9はメッシだ。間違えた、滅私の男である。「何か特別に貢献してるって言われなくてもいいんですよ。チームがそのまま円滑に進んでくれれば、それでいい」。もちろん得点はチームを救い、自分の評価を上げるものであり、軽視しているわけではない。FWである以上、そこは常に欲するものではある。だが、彼の第一優先にあるのはチームの勝利であり、そのためなら自分が黒子に徹することもいとわない。

17歳の新星の活躍に沸いた19日のルヴァンカップ第4節横浜FC戦でも、酒井の地道なプレーはチームを支え続けていた。ツートップを組んだ貴田遼河は勢いはあるが、まだまだ身体づくりの真っ最中であり無駄な動きも多い。当然、追いきれない守備の局面や気づけない対応も多く、それが相手に付け入る隙を与えてもいた。だが、その何割かの場面では酒井が代わりに走り、指示を出し、身体を張ってマイナスにしなかった部分は見逃せない。決定的な仕事という点でも貴田の2得点をお膳立てしたのは酒井だった。1点目はコーナーキックを酒井がフリックし、2点目も酒井のスローインからの素早い試合再開がターレス経由で貴田をアシストした。


自身の決定機は止められたPKの場面を含めていくつもあり、決めておけばと悔やまれるところはあるが、おそらく本人は直後に切り替えていることだろう。今季のテーマは「楽に、ハードに」だ。昨季は得点源としての自分を追い求めすぎて力みがプレーに満ち満ちていた。それを反省し、「シャカリキにやるのも自分のプレースタイルだけど、自然体を心がけたい」と思い直した。「チームが円滑に」という心境はそうした部分からも生まれた気概で、まずはチームの勝利を追求し、そこにどれだけ自分のパフォーマンス、結果を上乗せできるかが今季の彼の意気込みだ。落ち着いたメンタリティで勝負と向き合った結果は、重厚で実効性の高い数々のプレーであることは言うまでもない。



チームの成長と進化も酒井に追い風を吹かせる。シーズン開幕当初は速攻以外の攻撃がまだまだ練りきれていない印象もあったが、試合をこなすごとに遅攻とのバランスや戦略との掛け合わせも向上し、チャンスにかかわる人数が飛躍的に増えてきている。酒井に舞い込むチャンスとしてもルヴァンカップ第3節の永井謙佑と米本拓司とのコンビネーションで仕留めたゴールを筆頭に、4節の決定機の数々も酒井と数名の選手がスピーディーにかかわったことで生まれたものが多かった。「かかわってきてくれる人数が増えれば増えるほどやりやすい」。相手を見て、仲間を見て、最適解を導き出す調和のストライカーにとって、最高の環境が揃いつつある。

何より酒井はよく笑う。一つひとつのプレーに対して周囲とコミュニケーションをとり、良いプレーに笑み、ゴールを喜び、勝利に相好を崩す。身を粉にして走り、味方のために身体を張っている重労働などまるで感じさせないその表情は、名古屋の現在の状態を端的に示して揺るぎない。好調のチーム、勝っているチームには、総じてこうした不可欠のハードワーカーがいるものである。


Reported by 今井雄一朗