Js LINK - Japan Sports LINK

Js LINKニュース

【取材ノート:長野】完封でのプロ初勝利も満足せず。GK濵田太郎が見据える先

2023年4月5日(水)


「嬉しかったが、実力を出せた気はしなかった」。AC長野パルセイロは5日に行われた明治安田生命J3リーグ第5節・Y.S.C.C.横浜戦で1-0と勝利。GK濵田太郎にとっては完封でのプロ初勝利だったが、満足感を示す様子はなかった。

昨季、大阪産業大学から大分トリニータに入団。日本高校選抜や関西学生リーグ2部優秀選手賞といった実績を引っ提げて臨んだが、高木駿ら実力者の壁に阻まれ、出場機会は訪れなかった。

プロ2年目の今季は育成型期限付き移籍で長野へ。キャンプの途中に合流したが、開幕直前に軽傷を負ってやや出遅れた。第3節・奈良クラブ戦まではベンチを温め、プロ初出場を飾ったのは第4節・カターレ富山戦。奈良戦でビルドアップが停滞していたことから、その改善を見込んでスタメンに抜擢された。


結果は3-3とドロー。濵田にとってはノーチャンスと言えるような3失点だったが、「自分のところに来るまでに、コーチングでどうにかできたかもしれない」と省みる。それでもシュタルフ悠紀監督が「良い流れでボールを持って押し込めた」と振り返ったように、ビルドアップに安定感をもたらしたのは事実だ。

ほろ苦デビューから1週間。濵田は第5節・YS横浜戦で再び先発の座を射止めた。61分にセットプレーから先制し、その1点を守り抜いて1-0と辛勝。完封でのプロ初勝利と、GKとしては申し分ない結果を残した。


しかし、本人は納得感を示さなかった。「富山戦のほうが内容は良かったと思う。キックミスがあったし、クロスへの対応も悪かった」。結果的には事なきを得たが、9分には自陣からのFKがうまく足に当たらず、20分にはクロスに対してパンチングの飛距離が出なかった。前者についてはホームデビューという緊張もあっただろう。後者については日差しも影響していたようだが、「それはもうアップの段階で分かっていたこと。もっと良い判断ができたと思う」。

安定感があったかと言えばそうではないが、随所に良さが光るシーンも見られた。8分にはゴールキックを最前線の進昂平にピンポイントで合わせると、進が頭でそらして山本大貴が抜け出す。こぼれ球を杉井颯が詰めたが、相手GKのファインセーブに阻まれた。これには「あそこで点が決まっていたら...人生そんなに甘くないですね」と苦笑い。28分にも進に正確なパントキックを送るなど、得意のロングキックで攻撃の第一手を担った。

押し込まれた終盤はセービングも披露。76分にアーリークロスをパンチングで大きく弾くと、94分には手前でバウンドしたミドルシュートを落ち着いてかき出す。チームとして失点がかさんでいた終盤を乗り越え、完封に貢献した。

デビュー2戦目でのプロ初勝利。表情こそ安堵感に包まれていたが、何度も言うように納得はしていない。その背景には、トップレベルで活躍する同年代の存在があるようだ。

「高校選抜で一緒だった角田涼太朗(横浜F・マリノス)はA代表に選ばれたし、宮本優太(KMSKダインゼ)はベルギーに行っている。自分はJ3でデビューして喜んでいたが、彼らからしたら試合に出るのは当たり前だし、代表でレギュラーをつかむくらいの意識でやっていると思う。ここで喜んでいてはいけない」

3月のキリンチャレンジカップの日本代表メンバーを見ると、同年代の大迫敬介(サンフレッチェ広島)と1歳上の谷晃生(ガンバ大阪)が名を連ねている。彼らに追いつき追い越すためにも、プロ初勝利に慢心するわけにはいかないのだ。

「もっと試合を重ねて、実力を100%出せるようにしたい」。長い手足を生かしたシュートストップやディフェンスラインの背後のケアなど、彼にはまだ試合で見せていない武器がある。その能力が遺憾なく発揮される時を楽しみに待ちたい。

Reported by 田中紘夢