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【取材ノート:福岡】「博多の森」に舞い降りたスピードスター。鶴野怜樹の抜群の輝き

2023年3月21日(火)


決して数値化できないパワーがアビスパ福岡のホームであるベスト電器スタジアム、いや、「博多の森」という場所には存在するのかもしれない。

湘南ベルマーレを迎えた明治安田生命J1リーグ第5節、0-1の後半アディショナルタイム、山岸祐也が立て続けに2つのシュートをゴールに突き刺し、福岡は土壇場の逆転劇でクラブ史上初となるホーム開幕3連勝を飾った。ヒーローはもちろん、福岡のエース山岸。ただ、逆転ゴールとなる2点目をアシストし、途中出場でチームに流れをもたらしたのは紛れもなく福岡大学から加入したルーキーの鶴野怜樹だった。


この試合から遡ること11日。JリーグYBCルヴァンカップのグループステージ第1節の新潟戦でプロ初先発、初ゴールを挙げ、この日はリーグ戦で初のベンチ入り。「今一番乗っている選手」と長谷部茂利監督が太鼓判を押す鶴野のJ1リーグデビューは77分に訪れた。「緊張もいい具合にしていて、でもやるしかないというか、そういうふうにマインドコントロールというか、自分をコントロールできたのが良かった」と振り返るようにファーストプレーから落ち着きを放つと、自身の最大の特長であるスピードは時間を追うたびに輝きを増していく。

「ナガくん(永石拓海)がロングフィードしてくれたんですけど、その2分前ぐらいからずっと『怜樹』と呼ばれていて、ナガくんのほうを見たらこっち(相手の最終ラインの背後のスペース)を指差していて、結構がら空きだったんです。そうやって『そっちに蹴るぞ』というメッセージをずっともらっていたので、ナガくんが(ボールを)取った瞬間に(そのスペースに)走れば絶対に良いボールが来るなと思っていました。そしたらめちゃくちゃ良いボールが来て、自分は途中出場でしたけれど相手は疲れているかなと思っていたので、勝負するしかないと思いました。最初は縦に行こうとしたんですけど、自分は左足で持つのが癖というか得意なので、あそこでカットインしてシュートを打つのがストライカーなんですけれど、自分にはゴールが見えていなくて、(山岸)祐也くんが良い動きをしていたので、そこに決めてくれてという感じでした。それを決めてくれたのでさすがだなと。やっぱりカッコイイなと思いました」


福岡大学の先輩である永石から想いの詰まったパスを抜群の加速力を活かして受け取ると、冷静な状況判断で「(福岡に)内定をもらった時からずっと憧れの選手」である山岸に想いを託し、博多の森を熱狂の渦に巻き込んだ。

そんな彼もひとたびピッチを離れると愛くるしい笑顔を見せ、取材対応が終わるときちんとお辞儀をし、澄んだ目で感謝の言葉を伝えてくれる礼儀正しい好青年。だが、ピッチに入ると表情は一変する。「やはり周りが信頼というか、認めてくれるのは得点やアシストで結果を残すことが一番」と力強く語るように野獣のような鋭い眼差しでゴールを狙い続ける生粋のストライカーだ。

鶴野にとって試合当日は、節目の日でもあった。出席はできなかったが、スタジアムと同じ福岡市内で在籍した福岡大学の卒業式が行われていたのだ。度重なる怪我に悩まされ続けた大学時代。それでもサッカーに実直に向き合い続けてきたからこそ、苦しさを乗り越え、今プロのピッチで輝きを放ち始めている。そんな姿を見てこれまで彼を支えてくれた人たちもきっと喜んでくれているはずだ。

「調子が良い時こそ怪我とかが付き物だと思っているので、これに浮かれずに、ケアをしっかりとするのがプロサッカー選手としての役目というか、仕事だと思っています」

福岡に彗星の如く現れた鶴野は、強い自覚を持ってプロサッカー選手としての道を歩み始めている。

Reported by 武丸善章