2023年最初のトレーニングゲームは、0-6の大敗。だが目を凝らせば、そこに前向きな可能性を見いだすことができた。
今治里山スタジアムを新たな本拠地とするFC今治は、このオフ意欲的な補強を進めてきた。Jリーグで豊富なキャリアを誇るブラジル人FWドゥドゥを筆頭に、2019年から2シーズン、J2からJ1へ昇格しようとするアビスパ福岡で存在感を発揮したスペイン人GKセランテス、ジュビロ磐田で確固たるキャリアを築いたDF櫻内渚など、10選手が新たに加わった陣容は、J2昇格への本気度を物語る。
昨シーズンのヘッドコーチから昇格した髙木理己監督のもと、チームは1月16日に始動。25日、初めてのトレーニングゲームに臨んだ。相手は高知でキャンプ中のアルビレックス新潟である。
折からの大寒波のため、愛媛から高知に至る自動車道が雪で通行止めになる心配もあったが、チームを乗せたバスは春野総合運動公園に無事に到着。13時のキックオフで、30分を3本行った。
立ち上がりこそ新潟陣内に攻め込み、立て続けにCKを取った今治だった。だが、徐々に押し返されていく。そして1本目の14分に先制を許すと失点を重ね、敗れた。
攻めては無得点、守っては6失点ということで、さすがにナイスゲームだったとはいいがたい。だが、決して悲観的になるような悪いゲームではなかった。今治がやろうとすることがはっきり見て取れたからだ。
大差が付いた一つの理由として、今年の新潟がすこぶる充実したキャンプを送っていることが挙げられよう。筆者はサッカー専門誌の編集部を経てフリーランスとなり、東京から新潟に移り住んで12年間、チームを取材してきた。2年前、故郷の愛媛に戻り、今治を新たな拠点として活動しているが、引き続き新潟も追いかけている。そのため今年で15回目となる新潟の高知キャンプすべてを取材しているのだが、今年はこれまでで一番というほど、選手たちの動きが良い。
新潟を率いる松橋力蔵監督は昨年、指揮官の座に就くと、アルベル前監督(現FC東京監督)が築いたボールを保持し、主導権を握って戦う攻撃サッカーをさらに鍛え上げ、J1昇格とJ2優勝を成し遂げた。強調するのは相手ゴールに向かうこと。パスをつなぐことはあくまでも手段で、ポゼッションが目的化しないよう、細やかに配慮する。攻める姿勢がブレることはなく、ボールを失えばまずは即時奪回を試みる。
この新潟のスタイルに、今治が圧倒されたわけではなかった。真っ向から受けて立ったといってよい。ゴールキックになると右CBの櫻内、左CBの照山颯人はペナルティエリア脇に立ち、GK修行智仁から横パスを受ける。新潟のプレッシャーを受けても、後ろからつないでビルドアップする意志は明白だった。それによく呼応していたのが右サイドバックの野口航、今季から10番を背負い、登録名もインディオから変更した右サイドハーフのマルクス ヴィニシウスで、新潟のプレスをはがしてボールを前に運ぼうと試みた。
ただ、2本目途中までプレーした20歳のMF松井治輝、23歳のパク スビンという若いボランチ2人が思うようにパスを循環させることができず、チーム全体で攻め上がれない。逆に新潟はひとたびボールを持つと、テンポよくボールを動かし、揺さぶってくる。これに対し、今治はブロックを組んで応戦。しかし、何度も左右に振られるうちにスライドが追いつかなくなり、スペースができるやいなや、すかさず縦パスを通されて窮地に追い込まれる。新潟の選手はみなボールの置き方も巧みで、なかなか今治に奪う隙を与えてくれない。
だが今治も盛り返す。2本目途中からボランチがMF楠美圭史、かつて新潟でもプレーしたベテランMF三門雄大という昨季のレギュラー2人に代わると、果敢に前からボールを奪いに行く姿勢が強まり、それに応じて攻撃回数も増えていった。
最大のチャンスは3本目の14分だった。楠美が高い位置でボールを奪い、すかさず右のスペースにパスを出す。受けて駆け上がったのは、ガイナーレ鳥取から加入したレフティーのMF安藤一哉。トップスピードでゴール前に侵入すると、体を開きながらの左足シュートでゴール左上の隅を狙う。残念ながら枠をとらえ切れなかったが、前からボールを奪いに行って鋭くゴールに迫る攻撃は、今治が磨き続けている武器である。点差が付いていたとはいえ、精度と強度の高い新潟相手にチャンスを作ったことは、自信にしていいはずだ。
新チームが始動して1週間余りではっきりした方向性のもと、J1相手に戦ったことは決して悪くない。0-6で敗れて得られた最大の課題(あるいは収穫といってもいいだろう)は、髙木監督が求める「相手に食らいつく姿勢」を、もっともっと見せられるはず、という点だろう。例えば、この日の新潟に対しても。
選手たちに求める姿勢について、髙木監督はチームの始動日に次のように語っている。
「ボールを奪うことを、狩りにたとえてハントするという表現をする人もいます。僕はハントというより、かみつく、バイトという言葉を使いたい。ボールを、ゴールを、勝利を奪うためにバイトし続ける。そういう戦いを、みなさんにお見せしていきます」
トレーニングゲーム後、帰り支度を整えたFW中川風希が新潟の松橋監督にあいさつし、長く話し込む光景があった。中川が横浜F・マリノスに在籍していた2019年、松橋監督はチームのコーチとして指導に当たっている。
以前、当時の中川についてたずねると、「風希は得点感覚を持っているんですよ。公式戦はなかなかチャンスがありませんでしたが、不思議なくらい練習試合で点を取る」と評していた松橋監督。その言葉通り、昨年の中川はチーム最多タイの12ゴールを挙げ、J3参入後の3年間で最高となる5位でチームがフィニッシュすることに大きく貢献した。
松橋監督と久々の再会となった中川だったが、今回はなかなかパスが届かず、シュートは打てず。途中までプレスの連動性も今ひとつで、ボールを奪いに行く積極性も見せられなかった。その後の対話は大きな刺激となり、今季のパフォーマンスに必ずやつなげてくれるだろう。
0-6の大敗に意気消沈する理由は何もない。進むべき方向が明確に示されているからだ。新たなホーム、今治里山スタジアムは明日、29日にこけら落としとなる。新スタジアムで戦う2023シーズン。その最後に『目指す場所にたどり着けたのは、1月の大敗があったから』と振り返ることができるような、糧とするチームの躍進に期待したい。
Reported by 大中祐二