柏のバンディエラ、大谷秀和が今季限りで現役生活に幕を閉じた。
大谷はホームタウンの流山市出身で、1997年に柏のジュニアユースに加入し、アカデミーでの6年間を経て、2003年にトップチームへ昇格した。柏一筋20年、アカデミー時代を含めればクラブ在籍は26年にも及ぶ。
大谷は常に思考を巡らせている選手だった。引退が公式にリリースされた直後には、自身のSNSに「何か突出した能力があるわけではないが、考えることをやめずに戦ってきた」と自分の言葉を記している。チームのため、仲間を助けるため、今自分はどういうプレーをするべきか。相手選手の出方を見て、何をすることが効果的か、何をすれば相手が嫌がるか。「突出した能力があるわけではない」と彼は言ったが、むしろ考える力は大谷の突出した能力でもあった。
だからこそ戦術眼もずば抜けて高かった。自分がピッチ上でプレーをしていても、まるでスタンドから試合を見ていたのではないかと思うほど、俯瞰してサッカーを捉えられる眼を持っていた。
試合後のミックスゾーンで、大谷に取材をする時には独特の面白さがあった。勝敗に関係なく、なぜその試合がそういう展開になったのか。さらに自分のプレーやポジショニングに限らず、味方選手、相手選手のその瞬間一つひとつのプレーやポジショニングを記憶しており、克明に展開を解説してくれる彼の振り返りの言葉は、まるで推理小説やミステリー小説を読んでいて、伏線が全て回収されていく物語終盤の謎解きにも似た感覚があった。
そして同時に、大谷は突出したリーダーでもあった。
2008年に当時の石﨑信弘監督に「そろそろやれや」と促される形で、23歳の若さでキャプテンに就任。以来15年間、キャプテンとしてピッチの内外においてチームをまとめ上げた。
2022明治安田生命J1リーグが終了して2週間が過ぎた。現役最後のピッチとなった最終節の湘南戦から時間が経過した今でも、大谷は「まだ引退した実感はないですね」と笑顔を見せた。引退したとはいえ、柏を去るわけではない。来季からは指導者としての道を歩むべく、シーズン終了後から彼は早くも動き出している。
ミスター・レイソルの新たな挑戦は、すでに始まっているのだ。
Reported by 鈴木潤