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【取材ノート:今治】夢スタのラストマッチへ、楠美圭史は思いを込める

2022年11月6日(日)


JFLからJ3へ。そして今、J2昇格の可能性を追い続けて。FC今治のホームスタジアムとしてチームの戦いを支え続けてきた、ありがとうサービス.夢スタジアム(夢スタ)の歴史に、一つの区切りが付こうとしている。来シーズンからは夢スタに隣接する土地に建設中で、2023年1月に完成予定の里山スタジアムが新たな本拠地となる。

シーズン最終盤の明治安田生命J3リーグ第32節。ホームゲームも残すところ2試合となった今治は、夢スタで2位・藤枝MYFCを迎え撃った。藤枝との勝点差は7。3位には藤枝と同じ勝点63で松本山雅FCがつけており、藤枝に勝たなければその時点でJ2昇格の可能性が消滅、勝ったとしても松本が勝利すれば昇格が消えるというまさに“土俵際”で、チームは底力を見せた。32分、カウンターからFW千葉寛汰が挙げたゴールを守り切り、1-0で藤枝に勝利。さらに1時間遅く始まったゲームで松本がカターレ富山に3-4で敗れて、順位こそ5位のままだが、3ポイント縮めた分だけJ2昇格の可能性を広げて次節に臨むことになった。


今治の橋川和晃監督は、試合前のミーティングで夢スタの映像を選手たちに見せて、勝利へのパッションを高めた。時間は2分弱と短いものだったが、建設前のさら地だった様子や、当時はJFLだった2017年9月、こけら落としのヴェルスパ大分戦でたくさんの風船が舞い上がっていくシーンなどがまとめられたショートムービーは、間違いなく選手たちの後押しになったはずだ。

藤枝戦でキャプテンマークを巻き、ボランチとして奮闘した楠美圭史が東京ヴェルディから今治に加入したのは、夢スタがホームとなった2017年だった。以来、2020年のJ3参入を経て現在まで、チームの主軸であり続けている。

藤枝戦が始まる前のセレモニーで、Jリーグ通算100試合出場を祝福された楠美は、4試合ぶりの完封勝利を「自分たちらしい戦い」だと胸を張った。

「藤枝がしっかりボールを持つチームだと分かっていました。そこはリスペクトしつつ、自分たちがボールを奪いに行くことを意識してやれました。(中川)風希と(千葉)寛汰の2トップが本当にハードに前から追い掛けてくれて、僕たちボランチのところですごくボールを奪いやすかった。自分たちの一番の強みだと思う、そういう戦い方がゴールにつながり、結果にも出たので、とても良かったです」

自身は6シーズンにわたり、夢スタとともに戦ってきた。それだけに、試合前のミーティングで流されたショートムービーに、いつも以上のアドレナリンがあふれたのではないだろうか?

「というより、このスタジアムでの試合が、もうすぐ終わってしまうのかと思うと、さびしい気持ちの方が強いです。ただ、今日もそうですが、スタジアムに足を運んでくださるみなさんが『ああ、試合を見に来てよかった』と思ってもらえるゲームを最後までやりたいですね」

夢スタでプレーする魅力は、何といってもスタンドのサポーターとの近さだという。収容人数は約5,000人で、J2、さらにJ1を見据えた拡充の必要性から里山スタジアムの新設に至ったのだが、楠美はサッカー専用で、ごくコンパクトな夢スタの親密さを誰よりも知る一人だ。

「この距離感、近さは、他のどこにもないと感じます。みなさん、本当に温かい拍手を送ってくださるし、それだけで僕たちの力になるんです」

夢スタ最後の試合となる次節、AC長野パルセイロ戦は、声を出して応援できるエリアが初めて設けられる。今治がJ3に参入した2020年の戦いは、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、無観客試合から始まった。つまり、Jリーグを舞台に夢スタにチームの応援チャントが響くのは、次の長野戦が最初で最後となるのだ。

「今日の藤枝戦、みなさんに楽しんでもらえたと感じています。長野戦も思い切り楽しんでもらって、僕らの後押しをしてもらえれば。昇格については他力ですが、自分たちが持っている可能性を、自分たちで失ってはいけない。勝ち続けることで初めて何かが起こせるし、それをしっかりつかみ取っていきます」

熱い思いとともに、キャプテンは夢スタ最後の90分に臨む。


Reported by 大中祐二