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【取材ノート:今治】インディオがゴール後に左手首を見せた理由

2022年11月2日(水)


明治安田生命J3リーグの第31節。6位・FC今治は、勝点1差で追いかける5位・カターレ富山とのアウェイゲームに臨んだ。17分、今治はカウンターから先制に成功する。FW千葉寛汰から右前方のスペースに出たパスに反応したのが、右サイドハーフのMFインディオだった。

最初のタッチで、利き足である左足で蹴ることができる位置にボールをコントロール。トップスピードを保ったまま、2タッチ目でゴール左隅にあざやかに蹴り込んだ。


千葉と並び、チーム2位タイの8得点目を挙げたブラジル人アタッカーは、歓喜の表情でゴール裏へ走っていく。左手首に巻いているテーピングの内側を中継カメラの方に差し出すと、そこに書かれていたのは「RALF」の文字。5月初めにオランダに帰国し、闘病中のFWラルフ セウントイェンスの名前だった。

「ラルフは、自分たちよりもずっと大きな戦いをしていて、ものすごくがんばっているんだ。できるだけ早く元気になってほしいし、また一緒にプレーがしたい。彼とこのチームで過ごした時間は短いけれど、本当に親友なんだよ」

ともに今シーズン、今治に加入し、参入3年目のJ3を戦うチームの攻撃をけん引することが期待された。だがインディオは開幕当初、抜群のボールテクニックとドリブルを披露しながら、何度もあるシュートチャンスをなかなか決められないでいた。4月29日の第7節・テゲバジャーロ宮崎戦では、0-0で迎えた試合終了間際、ラルフのポストプレーからPKを獲得。ラルフは即座にインディオにボールを手渡し、PKを蹴るよう促した。

出場2試合目のラルフも、まだ今治でゴールを決めてはいなかった。「私もFWとして、点を取りたいインディオの気持ちはよく分かる。彼は途中加入の私よりも早くから、チームのためにプレーしている。だから、彼にPKを譲ったんだ」。オランダ人FWの思いを託されたインディオだったが、シュートは左ポストをたたき、ゴールはならなかった。

宮崎戦の翌節、カマタマーレ讃岐戦で、ラルフは決勝点となる今治初ゴールをマーク。しかし翌週、体調不良を訴える。内科系の疾患が見つかり、オランダに帰国したラルフは、精密検査の結果、悪性リンパ腫と診断されて、現在も療養中だ。

インディオが富山戦でユニフォームの下にラルフの名前を書いたTシャツを着こんでいたら、もしかするとイエローカードをもらっていたかもしれない。

「確かに、最初はTシャツにメッセージを書いておこうと思ったんだよ(笑)。ただ、どうしてもゴールを決めたとき、みんなにラルフの名前を見てもらいたくて。それで試合が始まる前、急いで左手首のテーピングに名前を書いて、ピッチに入ったんだ。残り3試合、少しでも多く点を決めて、ラルフに届けたい。もっともっと頑張って試合に勝てば、彼もきっと喜んでくれるはずだ」

17分に先制した今治だったが、前半の内に富山に逆転されてしまう。それでも前半終了間際に2-2に追いつくと、後半は押し込まれ、苦しい時間が続きながらも、少ないチャンスを物にして今季初めての逆転勝利。連敗を2で止めて5位に浮上するとともに、J2昇格の可能性をつないだ。

「前節はホームで逆転負けしてしまった(第30節●1-2 松本山雅FC)。自分にとって、ホームで勝てないのは一番、嫌な気持ちになることなんだ。それもあって、なおさらアウェイの難しい試合に勝利できたことがうれしい。自分たちは絶対に昇格できる。そう信じて残り3試合、決してあきらめずに戦うよ」

ホーム、ありがとうサービス.夢スタジアムに戻って次節に対戦するのは、勝点7差で追いかける2位・藤枝MYFCだ。目指す夢をたぐり寄せるため、ブラジル人アタッカーはゴールに向かい続ける。

Reported by 大中祐二