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【取材ノート:名古屋】名古屋グランパス四季折々:若鯱3人衆の現在地。確かな成長と、確かな課題

2022年10月5日(水)
名古屋グランパスの2022年シーズンも残すところリーグ戦3試合となり、チームは来季への伸びしろを確認しつつ1年の総仕上げを考える時期となってきた。チーム作りという点ではいろいろな角度から様々な要素を眺めることが可能だが、先日10月2日に行われたエリートリーグにおいて高卒新人3名が同時出場したことから、今回はアカデミー出身でもある彼らの今季の成長について、シーズン総括よりも一足早く振り返ってみたい。

今季の新人はいずれも名古屋グランパスU-18から昇格してきた選手たちで、全員がMFの選手だった。ドリブラーの甲田英將、ゲームメイカーの豊田晃大、ボランチの吉田温紀。いずれも年代別日本代表経験者の世代を代表する選手たちで、中でも甲田はシーズン序盤にU-21日本代表に飛び級選出されたことでも注目を浴びた。

では順番に考えていく。ドリブラーの甲田は右利きながら両足を遜色なく使える選手で、対戦相手のほとんどが所見では左利きを錯覚するほどに左を自然に使う。ゆえにどちらのサイドでも縦突破、カットインがスムーズで、ドリブルの切れ味とともに序盤はジョーカー的な役割を見込まれての起用が多かった。5月の試合中に左ひざの半月板を負傷してしまい、8月に復帰したばかりだが、経過は順調でリーグ戦メンバーに入ることも増えてきた。彼の課題は武器であるドリブルをいかにしてプロ仕様にアップデートしていくか。年代別代表を飛び級してしまうほどの能力があれば、高校年代のサッカーは無双状態である。ボールを受ければ自分の間合いで勝負ができ、高い確率で主導権を握ってプレーが選べる。だが、プロは違う。対峙するDFの体格も間合いも速さも駆け引きもすべてがハイレベルで、それほど体格に優れるわけではない甲田のドリブルは潰されるか、チャンスゾーンから押し出されるような形が多かった。本人もファーストタッチなどの繊細さで少しでもアドバンテージを得ようとしていたが、そう簡単に解決できるのならば苦労はない。





甲田はそこからパスを覚えた。といってもスルーパスなどではなく、ドリブルだけじゃない、という選択肢を相手に与える意味でのパスである。プレースタイル的にまずはボールを数度触ってからということの多い甲田だが、そこでパスをさばいてまたもらう、あるいはパスを出してゴール前に飛び込んでいく、というプレーができるだけで、相手との距離感は変わってくる。ドリブルしかない相手に対するDFの間合いを取られると、いくら有能なドリブラーでもかわしきれない回数が多くなってくる。しかしパスを警戒させればドリブルをする余裕ができ、仕掛けてからさらにのパスやシュートという次のプレーが生まれてくる。横浜FM戦、そしてエリートリーグの横浜FC戦ではいずれもクロスに対してニアに飛び込む背番号33の姿があり、いい意味でドリブルから脱却した印象も受け始めた。これは非常に良い傾向であり、次なる課題はシュートの打ち方か。小柄ながら強烈なシュートを持つ甲田だが、やや“テレフォンパンチ”なところがある。打つぞ、打つぞ、という感じで振り抜くのではなく、もともと振りの小さいフォームをもっと生かして、いきなり打ってきた、というタイミングで打てると素晴らしい。

次は豊田だが、練習参加をしていた高校3年生の時に、それまで“天才”と呼ばれてきた男は早くもプロの壁にぶち当たり、少し自信を失いながら昇格してきていた。プロになって初のプレシーズンキャンプでは少し大きくなった身体に成長を感じたものの、プレーの選択肢はまだまだ消極的で、本来の能力の半分も出せていない感じを受けたものだ。だが、地道に努力し先輩たちとの積極的なコミュニケーションを繰り返した結果、彼は一つのハードルを越えた。成果が見えたのは7月の天皇杯C大阪戦で、チームが連戦の最中でターンオーバーに踏み切ったこの試合、スタメン出場を果たした豊田は伸び伸びと、そして力強いパフォーマンスを披露したのだ。公式戦の雰囲気に飲まれることもなく、冷静に状況や仲間の動きを意識したポジショニングでボールを受け、さばいてまた動く、という機動力も見せた。シュートは枠を外れたが、しっかりとプロの試合の中でプレーしたという事実が、豊田が最初のブレイクスルーを果たしたことを示していた。





そこで自信を得た豊田は加速を始める。天皇杯の翌月に公開されたJFL鈴鹿との練習試合では前回に増して球際の強さや相手を見る余裕がみられ、次のステップである質をどれだけ求めるか、という段階に彼が進んだことを感じさせた。天皇杯では「自分のところの守備で重くなりすぎた。そこでもっと押し出さないとグランパスの前からはめにいくスタイルには到底追いつかない」と反省していた部分についても、単純な運動量からして上がっており、コンタクトの部分もひるむことなく身体をぶつける度胸も出てきた。横浜FCとのエリートリーグではチームメイトの負傷による突然の出番にも戸惑うことなく、飲水タイムが必要なほどの暑さの中で走りに走り、強度を表現する一人となった。試合終了間際には両足が同時につって動けなくなるアクシデントがあったが、走りが弱くて足がつったのではなく、走りすぎて足がつったと思えるだけの運動量を見せてくれた。プロの、そして名古屋のMFとして闘うだけの素地は間違いなく積み上げられてきている。あとは元来、元ドイツ代表のエジルが大好きだというクリエイティビティをハードワークの上に表現できれば。あの独特のエジルキックはアカデミー時代には失敗したというが、プロでしっかり結果につなげる日を心待ちにしたい。

最後に吉田温である。U-19日本代表候補の一人でもある身体能力の高いボランチは、ルヴァンカップの徳島戦でセットプレーからプロ初得点も決めており、同期の中では最も結果を残していると言える。出場数なら甲田、結果なら吉田温という印象だ。ボランチが主戦場で、アンカーでもインサイドハーフでもプレーできるインテンシティも持ち味で、シーズン序盤は大学生相手の練習試合で素晴らしいコンタクトプレーを見せて存在感も見せていた。自負する特徴はパスで、チームを押し上げていくビルドアップのパスはもちろんのこと、攻撃の仕上げとなるパスへの意欲も高い。ミドルシュートもあり、前述のように身体能力を活かした空中戦での得点力も吉田温のセールスポイントだ。ただ、彼には今シーズンを通じて改善したかった部分がいまだに課題として残っている。






それは動きの少なさだ。ルヴァンカップのアウェイ徳島戦、得点を決めた試合後に稲垣祥が言及している。「コイツ大丈夫か?って思うぐらいに落ち着きながらミスしますからね(笑)」。この時は「だけどアイツはアイツなりに自分の中ではこうだと思い描きながらやっているので。信頼して周りが助けてあげることが大事」と先輩の懐の深さを語っていたが、吉田温は確かにすごく落ち着いている。ただ、ボランチとしてはボールを受けに行く動きが少なく、動きながらボールをもらうことも少ないので、相手に狙われやすく、味方はパスをつけにくいところがあるのも確かだ。動き直しも多いとは言えず、周囲の選手から「もっと受けに行け!」と言われることも多々。うまくリズムが出た時にはダイナミックに攻撃を展開し、自らもその流れに乗って上がっていくのだが、後方でパスをさばいて様子を見ているようなことも多い。せっかくのパス能力も、ボールを受けなければ発揮できないし、チームで一番ボールタッチが多いぐらいであるべきなのが、彼のようなタイプのボランチだ。プロのスピード感に慣れていないというよりは、意識の問題のように見えるので、文字通りの“覚醒”を望みたい逸材である。

新人たちは奮闘し、自分の生きる道を切り拓くための努力を積み重ねている。あとわずかとなったルーキーイヤーの中で、もう一つ爪痕を残せる機会はやってくるのか。若鯱たちのもう一押しにも期待を寄せたい。

Reported by 今井雄一朗