「打て!」「ナイスチャレンジ!」――そんな言葉が飛び交う一日だった。AC長野パルセイロは前節・鹿児島ユナイテッドFC戦で1-4と大敗したのち、10月4日にトレーニングを再開。ハーフコート以下の狭いグリッドで「シュートシーンが多いようなゲーム」(シュタルフ悠紀リヒャルト監督)を繰り返した。
「このチームはシュートの意識が足りない。それは私が来てからの課題だが、そろそろ払拭してほしいと思っている」と指揮官は言う。長野は順位こそ7位だが、得点数だけを見れば30点で11位。最多得点を誇るいわきの57点と比べると、倍近く離されている。
決してチャンスの少ないチームではない。鹿児島戦は相手の背後を突く戦法で、54分には宮阪政樹のサイドチェンジに抜け出した藤森亮志が得点。そのほかにも背後を突くシーンは見られたが、シュートやクロスのタイミングを逃していた。
就任1年目のシュタルフ監督は、長野を「ミスを怖がるメンタリティが根付いているクラブ」と言い表す。昨季の4連勝を果たした際は、4試合15得点と攻撃力が爆発。今季の4連勝時は得点数こそ「6」と多くなかったが、シュート数はいずれも2ケタに到達していた。一時的な“ケチャドバ”と言えばそれまでかもしれないが、そのきっかけを作れるか否かは自分たち次第でもある。
「鹿児島だったら有田(光希)、米澤(令衣)、五領(淳樹)は打てる時に打つ。いわきの2トップ(有馬幸太郎と有田稜)もそうだし、最近対戦した相手だと福島の高橋(潤哉)、沼津のブラウンノア(賢信)もゴールに向かう意識を持っている。そこは意識を変えないと周りも触発されない」と、指揮官は相手選手を引き合いに出した。
長野において“意識改革”の一役として期待されるのは、ベテランの宮阪政樹だ。ボランチながらJ通算30得点を誇り、毎試合のように積極的なミドルシュートを放っている。
「『この選手はこの位置からでも打つんだ』と見せておいて、寄せてきたところで空いたスペースに出すとか、選択肢を持つという意味でも打つのは大事。そういう相手との駆け引きは足りないと感じる」。
その姿勢を最も見せなければいけないのは、言うまでもなくFWだ。宮阪は良い例として、明治大の先輩・林陵平(2020年限りで引退)の名を挙げる。モンテディオ山形とザスパクサツ群馬でともにプレーし、「まるで外国人選手のようだった。PKになったら絶対に『俺が蹴る』と言うし、シュートへの意識を本当に学ばせてもらった」。
長野にも両足で強烈なシュートを放つ宮本拓弥や、ヘディングのコントロールに長けた山本大貴らがいる。ストライカーとして期待される彼らでさえ、先述したゲームではシュートチャンスで迷いが生じているように筆者は感じた。それは2人だけの問題ではなく、チーム全体の意識がそうさせているのかもしれない。
意識改革とは時間がかかるものだが、「来季こそは」と悠長に言っていられる余裕もない。残り7試合で昇格圏内の2位・鹿児島との勝点差は「13」。奇跡の逆転昇格に向け、引き分けも許されない状況が続く。しかし裏を返せば、失うものがない今こそ、意識を変える絶好のタイミングではないか。結果と進化の両輪を追い求めた先で、得点力のある長野が見たいところだ。
Reported by 田中紘夢