【取材ノート:名古屋】名古屋グランパス四季折々:クオリティを高め続ける内田宅哉。変幻自在、柔軟性に富んだそのパフォーマンスにさらなる評価を
“秘蔵っ子”がようやくその本領を発揮し始めたようだ。シーズン開幕後の3月に長谷川健太監督の直近の古巣であるFC東京からの期限付き移籍が発表され、当時は「インテンシティの高い選手。連戦の中でしんどい試合になった時、ここはちょっと頑張ってもらいたいという時にプレーできる選手が名古屋にはいなかったこともある」と指揮官からの期待を受けてもいたのだが、負傷もあってかなかなか実力を見せる機会がなかった。ポジションは変幻自在、名古屋ではサイドバック、ウイングバック、ボランチ、シャドー、インサイドハーフと複数ポジションで起用され、東京時代にはサイドバックで「良い感じにプレーできた」と手応えも。東京の生え抜きが選んだ初の移籍は相当に苦難も伴ったが、昨今のクオリティを見れば獲得の理由もよくわかるというもの。
内田宅哉の特徴は説明しにくい。例えばマテウスや相馬勇紀のような誰もが想像しやすい、わかりやすい武器があまりない。運動量が豊富で、技術も高く、コンタクトプレーなどにも強くてボールを受けるのを怖がらない。得点を積極的に狙いに行くことは少ないが、その過程にかかわる力は高く、チームが攻撃に加速していくそのきっかけを自らのボールレシーブで生み出すことができる。動き直しが多く、的確で、パスコースになれて、周囲を使える。潤滑油といったら雑な表現だが、チームをスムーズに動かしていくことが内田の特徴のように思える。
きっかけは6月だっただろうか。ホームでの鹿島戦、ハイテンションのゲーム展開の中で途中交代でピッチに入った内田は、その流れにすっと乗って問題なくプレーした。1‐1の状況で交代選手に求められるのは決定的な仕事で、その意味でも後半アディショナルタイムにあと一歩、というクロスを上げるなど躍動し、「タフな戦いだったので、途中から入ってみんなのサポートというか。みんなが疲れている中でどれだけ自分がカバーできるかというところも考えていた」と充実の表情。「試合の中でここに出してほしい、ここに動いてほしいという会話もできている。そこがだんだん上手くできてきているなという感覚はある」と移籍後の積み重ねが生きてきたという感触もあり、ここから彼のパフォーマンスは上昇していった記憶がある。
それからコンスタントにメンバー入りをするようになり、最近では中盤インサイドハーフかシャドーポジションのレギュラー候補としての評価も高まってきた。タイプとしては夏の新加入の重廣卓也に重なるところがあるが、より球離れが良く、動き続けてボールを受けるのが内田という印象もある。守備の運動量もプレッシングの部分よりは、ボールを奪いきるコンタクトの強さ、プレスバックの巧さ、戻りながらの守備の眼力といったあたりが内田の持ち味か。誰を選ぶかは監督の判断で、しかし選手層が厚くなったことで長谷川監督は相手によって選手の組み合わせを考えることもすると言っている。つまり、内田を使う時、内田の特徴が欲しい時もまた、明確になってきたということだ。
ゆえに今、内田の使い方は非常に興味深いものにもなってきた。ゲームを作る、ゲームを変える、どちらでも有用な背番号34が起用される時、その試合における名古屋の戦い方や状況が示されているからだ。インテンシティ、運動量、攻撃における起点作り。もちろんゴールに絡む働きも欲張りたい。そしてその要求に応えようとする内田の奮闘は、名古屋にとって非常に価値のあるものとして認知されつつある。
Reported by 今井雄一朗