8月30日、AC長野パルセイロが待望のセンターバックを獲得した。Jリーグで7クラブを渡り歩いてきた32歳・乾大知だ。昨季は松本山雅FCから栃木SCに期限付き移籍したが、シーズン終了後に両クラブから契約満了が発表。今季はここまでフリーとなっていた。
とはいえ、行き先がなかったわけではない。複数クラブから打診を受けていた中で、あえて選んだフリーの道。その理由は、以前から持っていた海外志向にあった。「前から東南アジアでやってみたかった。こういう仕事じゃないとなかなか行けないし、年齢的にもここかなと思った」と胸中を明かす。
夏の海外移籍を見据え、フリーの期間はtonan前橋(関東サッカーリーグ2部)に練習参加。前橋商業高校と前橋ジュニアの指導も務めるなど、地元・群馬で研鑽を積んだ。「周りから見たら『大変だね』『チームは決まらないの?』という感じだったが、自分の中で大した焦りはなかった。長い人生の中で良い経験ができた」と約半年間を振り返る。
しかし、最終的に海外からオファーは届かなかった。その中で打診を受けたのが、明治安田J3で昇格争いを演じる長野だ。J1やJ2で戦ってきた乾にとってはカテゴリーを下げる形となるが、決め手はシュタルフ悠紀リヒャルト監督の存在だった。「Y.S.C.C.横浜の時から面白いサッカーをしていると思っていた。今まで(の監督)と違ったサッカー感を持っているので勉強になるし、ここで学びたかった」。
チームにとっても乾の経験はプラスとなり得る。J通算200試合出場のキャリアを持つが、指導者を経験して「外で見る感覚と中で見る感覚は全然違う」と学びを得たという。それを踏まえて「監督の求めていることをしっかりと理解しないといけない。監督が10のことを伝えたら、選手は7、6……下手したら5くらいしか分かっていないこともある。そこは密にコミュニケーションを取らないと」とピッチ上で還元する構えだ。
今夏には、守備の要・喜岡佳太がモンテディオ山形に個人昇格。本職のセンターバックは池ヶ谷颯斗、秋山拓也、敷田唯の3名のみと手薄になっていた。そこに経験豊富な乾が加わり、指揮官は「我々の日常にとってすごく大きい。トレーニングもそうだし、若手の育成もそうだし、大きな付加価値をもたらしてくれると思う。(大卒1年目の)敷田もベテランがいることによって、成長が加速されることに期待している」と声を弾ませる。
チームに経験を還元しつつ、まずはコンディションの向上が最優先だ。「半年間体を動かしていたとはいえ、強度の高い練習はやっていなかった。そんなことは言っていられない時期だが、焦らずにやっていきたい」。2017年にはV・ファーレン長崎でJ1昇格を経験。長野のJ2昇格に向け、ラストピースとなるだろうか。
Reported by 田中紘夢