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【取材ノート:名古屋】名古屋グランパス四季折々:重廣卓也は距離感を操る。ピッチ上でも、コミュニケーションスキルでも

2022年8月4日(木)


プレーもトークも、立て板に水である。今夏の補強の一角として福岡からやってきた重廣卓也は、加入初日から我々報道陣をその高いコメント力で魅了し、そして名古屋でのデビュー戦となったルヴァンカップ準々決勝第1戦の試合後取材ゾーンでも再び魅せてくれた。とにかく言葉がまっすぐで、清々しい。

「いや、ひどかったです。こんなに走れないか? こんなに行けないか? 判断悪いな、とか正直めちゃくちゃあったので」

移籍してきて約1ヵ月、その間のチームにはコロナ禍も吹き荒れ、リーグ戦が中止になるなど全体練習にも支障が出る状況もあって密なチームトレーニングはそれほど行なえてはいない様子だった。永井謙佑やレオナルド、永木亮太らはリーグ23節の札幌戦で一足早くデビューしていたが、重廣は遠征メンバーには入ったがベンチ入りはならず。前所属の福岡でも今季はリーグ2試合77分、カップ3試合1得点と出場機会に乏しく、コンディションと試合勘の両面で養えていないところがあったのは確かだ。浦和とのルヴァンカップでは前半はやや落ち着きに欠けたプレーに終始し、プレスもことごとくかわされ続けたが、そこは本来ボックス・トゥ・ボックスのハードワーカーである。前半45分の奔走も彼にとってはウォーミングアップで、後半に開眼した。

「チームは負けていましたし、ホームで負けるわけにはいかないので、よりアグレッシブに前から行かないといけない、というのは明確だったので。それで上手く割り切っていけた部分もあって、(永木)亮太くんとも『伊藤のところはケアするから岩波のところにどんどん行って』とハーフタイムで確認できていた。そこでよりアグレッシブに行けたと思いますし、僕自身も後半になってから何というか、やっと温まってきたというか(笑)」

エンジンに火が入った重廣はとにかく走った。しかも前線を縦横無尽に。前半とは打って変わってポジショニングに確かさが生まれ、新たなチームメイトたちとの距離感を物理的にも心理的にも自ら縮めていく。「チームメイトに『僕、こんなプレーできるんやで』というのは今日の試合で少しは見せられたかと」。前半はトリッキーなボールの持ち方がロストにもつながっていたが、後半になるとそれが小気味よいプレーとなって攻撃を彩っていく。同点に追いつく森下龍矢のゴールは重廣のアシストで、「アビスパの方のルヴァンのジュビロ戦で、ああいう形でニアハイにボレーで点決めて。それがすごくよぎって『打とう!』と思ったんですが、相手のシュートブロックが見えたので、判断変えてGD間に入れれば誰かいるかな」と、冷静な判断力と土壇場でプレーを変える技術も備わっている。


そして重廣はよく話す。記者の質問に「いやあ…」とか「うーん…」とか親しみを感じさせるニュアンスを含んだ返事をしつつ、自分の考えをよどみなく話す。ストレートな物言いは清涼感があり、例えばチーム合流の際に「優しい人たちばかりだなって思いました。挨拶にも笑顔で返してくれましたし。勝手なイメージですけど、怖いんじゃないかというイメージを持ったりもしていたので」という台詞にもまるで嫌味がない。京都時代のチームメイトである仙頭啓矢とのエピソードにしても、「『名古屋はめっちゃいいひとばっかやで』って言ってくれてたけど、啓矢くんはもう半年いるし、そらそうやろ、とか思ったりして」とツッコミを入れて我々を笑わせてくれる。それでいてサッカーを観る眼、観察する力は強く、「このチームは個人の能力が強いので、自分で何かしようということが多い。そこで僕が近づいて距離を良くすることで、パスやドリブルが選択肢として増えてきたらチームとしてリズムもできる」と示唆に富んだ発言も浦和戦のあとにはあった。



面白い選手である。福岡ではチーム戦術の中でなかなか自身の攻撃性能を出しにくいところはあったと言い、名古屋ではその点ではポテンシャルを発揮しきるポジションと役割を期待されてもいる。「まだ自分が欲しいタイミングでボールが来なかったりとか、逆に自分の判断ミスで前向き切れなかったりとか、いろんな細かい、小さなミスがある」。反省含みの感想は、逆に謙虚で上々の滑り出しであることを感じもさせたが、重廣本人はきっぱりと否定する。「しょうがないか、と思いながら取り組んでいくしかないなと思っています。まだまだです」。重廣卓也の本領発揮はまだ少し先の話なのか。移籍初戦でもその運動量には驚かされたのだが、これはもしかするともしかするかもしれない。さらに豊富に、もっと軽やかに。ピッチを誰よりも走り回る名古屋の背番号19を見る日が、楽しみで仕方がない。

Reported by 今井雄一朗