6年ぶりの帰還は、文字通り“チームを助ける”ことが彼に課せられる役割となる。かつての背番号と同じ7月「11」日に発表された永井謙佑の名古屋への移籍は、33歳となった韋駄天の懐の深さを見せる格好の機会だ。
名古屋時代の永井といえば、誰も追いつけないスピードを武器に相手DFラインを打ち砕くストライカーとしてのイメージが強い。あまりの速さに当時の横浜FMの木村和司監督は「ありゃあスピード違反にできんか」とぼやき、バックパスをかっさらわれたセンターバックは一人や二人では済まなかった。ACLのアウェイ、FCソウルとの一戦では常識的には届くはずのない相手DFのGKへのバックパスを永井が奪ってゴールし、直前の決定機をメモしていた現地記者全員がその瞬間を見ていなかった、なんて珍事も起きた。滑らかに加速していくスピードには誰もが予想を裏切られ、その馬力は時として守備でも活用されたが、彼は生粋のFWだ。
思えば前回、名古屋からFC東京への移籍を決めた理由のひとつが、FW起用という条件だった。ストライカーとしてのエゴと同等に、永井はチームのために闘う心も強く持つ。サイドハーフで守備も、チャンスメークもと求められればその役割に尽くすが、プレーのしにくさ、ゴールへの渇望はどうあってもストレスにはなる。西野朗監督時代には奇策としてのウイングバック起用にも応えた実績を持つが、試合を追うごとにポジションへのモチベーションは下がっていくのもまた道理。逆に言えば、彼が最もやりたいポジションを与えれば、“死ぬまで走れ”と言って永井を送り出していた長谷川健太監督の求めにも、応える覚悟で走ってくれるということだ。
そう、永井は求めてくれる人たちのために、自分を捧げる選手なのである。「必要とされていないチームでは頑張れない。必要とされていることが、モチベーションになる」。名古屋を去った際に語っていた言葉だ。2016年オフのあれこれを今さら蒸し返すつもりはないし、本人もそれは望んでいないだろう。一言だけ書いておきたいのは、彼が望んでも当時の名古屋には彼の頑張る余地はなかったということだ。あれから6年。2022年の名古屋グランパスにはFW起用も含めて永井が“走る”場所がある。自分をプロにしてくれたクラブのために、再び走れる機会が与えられたこと。それだけで永井の今季後半戦のプレーには注目すべきものがある。
二度目、いや三度目の名古屋における永井には、点取り屋としての働きのみならず、攻撃陣を上手く循環させる役割も期待されていると思う。FC東京時代、対戦相手として見る“永井謙佑”は相変わらずの速さとハードワーク、そして周囲を活かすサッカー観を存分に見せつけてくれた。自分でも最後まで行けそうなチャンスで冷静に周囲を見渡し、決定的なクロスやスルーパスで好機をさらに拡大すること幾度となく。昨季の名古屋との対戦でもパサーと見紛う絶妙なパスを連発し、サッカー選手としての成長を感じさせたものだ。だが、彼は彼のスタイルを変えたわけではなく、あくまで求めたのはアタッカーとしての矜持。今回の長谷川監督のオファーとしても「守備のハードワークであったり、攻撃の仕掛ける部分、ゴール、アシストにこだわってほしい」という永井の活かし方そのものだった。FWという職業は、気持ちよくプレーさせるに越したことはない。
加えて永井にはチームとの親和性を高められるという長所がある。長谷川監督曰く「アダイウトンとは合わなかった。同タイプだと良くないのかも」とのことだったが、チームメイトとの息を合わせることにかんしては得意な方の選手である。それは「僕は生かしてもらうプレーヤーなので」という自覚に基づく発想でもあり、「上手い選手がたくさんいるので、彼らにスペースを作る仕事であったり、切り替えのスピードであったりで、うまくチームに溶け込めたら」という目論見にもつながる部分だ。活かし活かされ、永井は得点を生み出す。「結果で認めてもらうしかない。本当に名古屋のためにもう一度戦いたい」。6年越しの希望がかなった今、背番号45のプレーには気迫が宿る。
願わくば、今後の永井のプレーが「許してもらえる」「許してやる」という感情のフィルターを通して見られないことを。名古屋に愛着を持った選手と、また一緒に戦える。チームのために戦いたい、走りたいと言っている。ならば我々はその背中を押し、ともに戦えばいい。何点取ったら帳消しだなんて言われるような悪いことを、彼がしたというのだろうか。名古屋の夏の補強の一人として、そして今後も主力としての期待を、等しく彼にも注げばいい。
Reported by 今井雄一朗