「(勝利に)大きく貢献したキーファクターだったと思う」。AC長野パルセイロのシュタルフ悠紀リヒャルト監督は、秋山拓也をそう評した。明治安田生命J3リーグ第15節、長野はアウェイでSC相模原に2-1と辛勝。秋山はダブルボランチの一角として出場し、攻守に奮闘を見せた。
本職はセンターバック。ボランチでの出場は第7節・鹿児島戦以来だった。鹿児島戦は80分から“クローザー”として途中出場し、1点リードを死守。しかし今節は「練習でもボランチでやっていたわけではなかった」と本人が言うように、前々日の紅白戦ではサブ組のセンターバックに入っていたが、急きょボランチでの先発起用となった。
最も大きな要因は、加藤拓己への対策だ。180cm82kgの“重量級FW”に自由を与えないよう、球際とヘディングに長けた185cmの秋山を配置。慣れないポジションで試合の入りが重要だったが、不安を感じさせなかった。まずは2分、相手のFKから加藤と競り合い、先に頭でボールに触れる。さらに6分、自陣で藤本淳吾にプレスを仕掛けてパスカット。守備で落ち着きをもたらし、チームは7分に幸先良く先制した。
10分にも見せ場を作る。船橋勇真のロングフィードはデューク カルロスに繋がらなかったが、宮本拓弥と水谷拓磨が即時奪回を試みる。そこに秋山も連動してパスを奪い、高い位置からのカウンターに繋げた。チームとしては2列目の3枚がプレスを仕掛け、秋山と宮阪政樹のダブルボランチは中締めを徹底。前半は2シャドーの藤本と船山貴之にスペースを与えず、1トップの加藤へのパスコースも遮断して起点を作らせなかった。
そして14分、攻撃でも輝く。宮阪が右サイドからFKを入れると、大外でフリーとなった秋山が利き足とは逆の左足で絶妙なトラップ。デューク カルロスとのワンツーから水谷に預け、水谷のクロスが直接ゴールに吸い込まれた。
学生時代もボランチの経験があり、足元は器用なタイプ。ビルドアップでは「真ん中で受けるのもビビらずにやろうと思っていたが、少しビビってしまった」と言うが、ボールサイドに顔を出してシンプルに捌くシーンが見られた。54分には宮本に約20mのクサビを打ち込み、最後は宮阪がミドルシュート。前方へのパスはミスも少なくなかったが、360度からのプレッシャーに慣れれば改善されていくだろう。
最も警戒していた加藤拓己にも「ある程度は勝てて仕事をさせなかった」。振り返れば、天皇杯県決勝・松本戦でもそのパワーを誇示。昨季J2で屈指の“エアバトラー”だった榎本樹と対峙し、制空権を明け渡さなかった。敵将の名波浩監督は、名指しこそしなかったが「ヘディングを中心としたエアバトルは相当強かった」と感嘆。シュタルフ監督も「このリーグ(J3)でトップレベルのヘディンガー」と高く評価している。
今季はここまで全試合でメンバー入りも、先発は15試合中8試合で確固たるレギュラーとは言い難い。それだけにボランチでも安定感を維持できれば、ユーティリティープレーヤーとして重宝されるかもしれない。高さ、強さ、そして巧さのあるボランチ――日本代表で言えば、板倉滉がモデルだろうか。
「自分ができたこととできなかったことがはっきりしたと思う。ボランチでの出場機会があれば、もっとチームをコントロールできるようにやっていきたい」。昨季にトライアウトを経て入団した27歳は、まだまだ可能性を秘めている。
Reported by 田中紘夢