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【取材ノート:名古屋】名古屋グランパス四季折々:チームの魅力のひとつに“食”あり。30周年記念給食の持つ意味と意義

2022年6月9日(木)


知る人ぞ知ることだが、名古屋グランパスというクラブの魅力の一つに、食事がある。かつて佐藤寿人が広島から移籍してきた時、名古屋の練習前後に設けられた栄養補給の体制にいたく感心していた。練習場の敷地内にあるレストランには管理栄養士が監修した昼食がビュッフェ形式で用意され、練習直後の補食としておにぎりやスムージー、各種ドリンク類などが完備されている。佐藤曰く「前は練習前にコンビニでおにぎりを買っていき、練習後に食べていた」とのことで、運動後の栄養補給や疲労回復について、これほど助かることはないとのこと。若手などが住む寮にも専属の栄養士がおり、毎日栄養バランスとエネルギー量の双方を補給できるシステムがあり、近年ではそのノウハウをより拡大して活用しようという動きもクラブ内には多かった。

その一つが管理栄養士による食育の指導で、これはもちろんアカデミーの選手たちや親に向けてもそうだが、ホームタウンの様々な場所や機会においても積極的に活動を積み重ねてきたことだった。ここ数年は新型コロナウイルスの影響もあり、ホームタウンの各所に出向いてという機会自体が減っていたが、ようやくその制約も緩和されてきたところで催されたのが、6月7日に行われた「名古屋グランパス30周年記念給食」である。クラブはアニバーサリーイヤーをフックに多種多様な活動を行なっているが、今回は練習場のあるトヨタスポーツセンターのおひざ元、愛知県みよし市の公立の小学校、中学校、保育園約7,000名に対し、給食のメニューをプロデュース。チームカラーの赤をメインテーマに「赤い給食」と名付けられた給食は、大好評だったようだ。



7日にはみよし市立緑丘小学校に午前練習を終えた稲垣祥と森下龍矢が駆け付け、児童たちとのコミュニケーションも楽しんでいる。コロナ禍においてはこうした小学校訪問をはじめとしたサポーター、ホームタウンの人々との交流も思うようにできていないところもあり、2選手は心の底からこのイベントを楽しんでいたように見えた。いつでも全力投球の森下は小学生が楽しんでくれればと時におどけ、できるだけ話しかけ、児童たち以上に目を輝かせていた。稲垣は森下よりは少し大人な雰囲気で、しかし目線はしっかり下げつつコミュニケーションを取り、マスク越しにもわかる満面の笑みで地元の小学生たちとの交流を楽しんでいた。



給食を食べている児童たちのもとを1年生から6年生まで回り、6年生とは少し質疑応答の時間を設けた選手たちだが、昼食はまだ。6年生の児童たちとの歓談が終わると「僕たちも給食を楽しんできます!」と校長室に向かい、写真の「赤い給食」にありついた。この給食のポイントは前述したように各メニューに赤がイメージされていり、サラダにはパプリカ、チキンライス、ミネストローネとまさに赤一色。さらにはみよし市の特産である柿のピューレがミネストローネには隠し味として使ってあり、それを知る2選手は何とか柿の味を確かめようと己の味覚を総動員していたのは微笑ましい限り。







「僕がグランパスに入ってから、なかなかこういう機会がなかったので本当に充実した時間だった」。キャプテン稲垣は楽しかった時間をそう振り返った。子どもたちの元気な姿には何か感じるものもあったようで、「僕が何か伝えたりしなきゃいけない立場ですけど、僕が何か刺激をもらっているという感じになってしまいましたね」としみじみ。昨季あたりからサポーターとの関係性、応援されることへの感謝を口にすることの増えた中心選手だけに、直のコミュニケーションからはさらに伝わるものがあったようだ。選手会長の森下も「心が洗われた」と笑顔。「少年の頃の『サッカーって楽しいんだ』という心がないと楽しめない。そういう良い心を取り戻させてくれた素敵な時間だった」と話し、残るシーズンへの活力を得たと声を弾ませた。



ところで今回の中でお気に入りのメニューはといえば、稲垣が「グランパスカラフルサラダ」で森下が「ミネストローネ」。しかし彼らのマイルールでは「僕はいつもサラダから食べるんですよ」(森下)、「おれはスープなんだよね」(稲垣)と逆だったのはなかなか面白い。あと二人とも「牛乳めっちゃ好きですとおいしそうにパック牛乳を飲み干していたのは、ふたりの身体の強さを印象付けるようで興味深かった。同席した森裕子栄養アドバイザーにも質問攻めで、「若手がすぐ足つって困るんですよ」(稲垣)、「僕は出しきることしか考えないんで」(森下)という会話もこぼれ話として記しておこうと思う。森アドバイザーの「それでも稲垣さんはリミッターをかけているでしょ?」という指摘には、長年チームに付き添った経験を感じてため息が出る。



以前は選手会主導での大掛かりな市内小学校訪問や、選手数名単位での病院訪問などいろいろな活動も多かった名古屋だが、今後はこうした食を通じた分野でもホームタウンとの結びつきが強くなっていければ素晴らしいもの。30周年に限らず、次は「名古屋グランパス給食」として愛知の各自治体に定着していくなどすれば、チームとホームタウンの関係性もまたひとつステージが上がるのでは、と思った。

Reported by 今井雄一朗