FC今治にとって、勝てば勝点で並び、上位進出への足掛かりにすることができた明治安田生命J3リーグ第9節の鹿児島ユナイテッドFC戦。しかし61分にCKから失点して、0-1で敗れた。
5試合ぶりに黒星を喫し、順位も6位から8位へと後退した。だからといって、悲観するような試合内容ではなかった。
ニアサイドでフリックされたボールをスライディングして押し込み、決勝ゴールを挙げた鹿児島のセンターバック、DF広瀬健太の「今治はなかなか手強かった。だからこそ、『セットプレーが勝敗を分けるだろう』と意識しながらプレーしていた」という言葉は、いかに拮抗した試合だったかを示唆する。同時に、勝負の勘所を押さえる大切さを伝えるものでもある。
ピンチはあったが、チャンスも作った。内容で劣っていなかっただけに、悔しさが募る。今治のMF山田貴文がまず目を向けたのは、勝利に不可欠なゴールだった。
「チームの課題は得点力。得点力が不足しているのであれば、もっと決定機を増やさないといけない。ラルフが離脱することになった今、代わりに誰かが得点源にならないと」
実際、ここまで複数得点は2節のカターレ富山戦(〇2-1)のみという中で、今季開幕後に加入したオランダ人FWラルフ セウントイェンスは出場3試合目となった前節のカマタマーレ讃岐戦で途中出場し、初ゴールをマーク。四国の隣県チーム同士、白熱のダービーに1-0で勝利する立役者となった。しかし、内科系の疾患が見つかったラルフは精密検査のため、10日にオランダへ一時帰国。再来日の時期は未定だ。
4-1-2-3のインサイドハーフとしてチャンスメークに、守備にハードワークする山田は、攻撃の軸となり得るFWが不在となったチームにおいて、1人1人が自覚を持たなければならないと考えている。
「誰かに(得点源に)なってもらうのではなく、自分がなるという意識でトレーニングを積んでいく必要がある。そうじゃないと、上位には食い込めないと思う」
そして自ら、鹿児島戦で実践した。心掛けたのは左から上がってくるクロスに対してゴール前に入っていくことと、鹿児島がパスをつないでくるチームなので、高い位置でボールを奪ってショートカウンターを仕掛けること。自身のシュートはゼロ本に終わったが、素早く、複数で寄せてくる鹿児島のタフなプレスを際どいところでかわしては、ウイングのブラジル人FWインディオやサイドバックのDF野口航らと連係しながら右サイドを崩し、ボールを前進させて、チャンスにつなげていった。
岡田武史オーナー発案の指導体系『岡田メソッド』において、自律した選手を育てることは大きなテーマの一つだ。それは、試合中に選手たちが状況判断し、考えながらプレーすることにつながっていくわけだが、鹿児島戦でもしっかり見て取ることができた。
「ゲーム中に相手のサイドバックの裏を何度も取れて、そこが弱いというのが分かった。パスをつなぎながら前進することがベースにあるけれど、弱いところをシンプルに突いてゴール前まで行けるのであれば、それで全然、構わないですから」と山田。その結果、いつも比べれば早いタイミング、テンポで相手の背後を突く攻撃が目立つことになった。だからといって、攻め急いだわけでもなかった。そんなところに、ピッチ内で共有されるもの強さ、確かさが表れていた。
状況を見て、判断しながらプレーする力は、守備においても発揮された。前半途中までは、経験豊富な鹿児島のベテランMF木村祐志に動き回られ、嫌なポジションを取られて、ボールを動かされた。中盤で対応を迫られる事態に陥ったわけだが、「誰にボールを持たせて、誰に持たせちゃいけないというところを、試合の中で修正できた」という。
当初は山田とMF島村拓弥のインサイドハーフ2人で木村、MF中原秀人という鹿児島のボランチ2人に対応していた。だが「途中から、できるだけボランチではなく、センターバックにボールを持たせることを意識した。センターフォワードの(中川)風希たちと話しながら、うまくできた」ことによって、センターバックからGKまでボールを下げさせ、さらに深追いしてサイドバックへとパスを誘導。そこで改めて人数を割いてプレスを掛けて、ボールを奪ってショートカウンターに持ち込む場面をたびたび作った。
「全部が全部、相手GKまでプレッシャーに行くのは難しい。でも、相手に気持ちよくプレーさせないことは重要。そこは前線の選手が頑張りたい。後ろも球際やヘディングで体を張って守ってくれている。点を取るところは運に左右される部分もあるけれど、運を引き寄せるためのクオリティーを上げるために、しっかりトレーニングで積んでいく」
手応え十分の試合だったからこそ、セットプレーの1点に屈した結果が悔やまれる。その悔しさが、ここから前進する原動力にもなる。
勝利した鹿児島は首位に立ち、勝点差は6となった。少し先を行く彼らの背中をしっかり捉えたまま、追いかけるチームの足取りは力強い。そのことを、試合後のミックスでポジティブな危機感をにじませ、取材に応じ続けた山田のたたずまいから確かに感じることができた。
Reported by 大中祐二
5試合ぶりに黒星を喫し、順位も6位から8位へと後退した。だからといって、悲観するような試合内容ではなかった。
ニアサイドでフリックされたボールをスライディングして押し込み、決勝ゴールを挙げた鹿児島のセンターバック、DF広瀬健太の「今治はなかなか手強かった。だからこそ、『セットプレーが勝敗を分けるだろう』と意識しながらプレーしていた」という言葉は、いかに拮抗した試合だったかを示唆する。同時に、勝負の勘所を押さえる大切さを伝えるものでもある。
ピンチはあったが、チャンスも作った。内容で劣っていなかっただけに、悔しさが募る。今治のMF山田貴文がまず目を向けたのは、勝利に不可欠なゴールだった。
「チームの課題は得点力。得点力が不足しているのであれば、もっと決定機を増やさないといけない。ラルフが離脱することになった今、代わりに誰かが得点源にならないと」
実際、ここまで複数得点は2節のカターレ富山戦(〇2-1)のみという中で、今季開幕後に加入したオランダ人FWラルフ セウントイェンスは出場3試合目となった前節のカマタマーレ讃岐戦で途中出場し、初ゴールをマーク。四国の隣県チーム同士、白熱のダービーに1-0で勝利する立役者となった。しかし、内科系の疾患が見つかったラルフは精密検査のため、10日にオランダへ一時帰国。再来日の時期は未定だ。
4-1-2-3のインサイドハーフとしてチャンスメークに、守備にハードワークする山田は、攻撃の軸となり得るFWが不在となったチームにおいて、1人1人が自覚を持たなければならないと考えている。
「誰かに(得点源に)なってもらうのではなく、自分がなるという意識でトレーニングを積んでいく必要がある。そうじゃないと、上位には食い込めないと思う」
そして自ら、鹿児島戦で実践した。心掛けたのは左から上がってくるクロスに対してゴール前に入っていくことと、鹿児島がパスをつないでくるチームなので、高い位置でボールを奪ってショートカウンターを仕掛けること。自身のシュートはゼロ本に終わったが、素早く、複数で寄せてくる鹿児島のタフなプレスを際どいところでかわしては、ウイングのブラジル人FWインディオやサイドバックのDF野口航らと連係しながら右サイドを崩し、ボールを前進させて、チャンスにつなげていった。
岡田武史オーナー発案の指導体系『岡田メソッド』において、自律した選手を育てることは大きなテーマの一つだ。それは、試合中に選手たちが状況判断し、考えながらプレーすることにつながっていくわけだが、鹿児島戦でもしっかり見て取ることができた。
「ゲーム中に相手のサイドバックの裏を何度も取れて、そこが弱いというのが分かった。パスをつなぎながら前進することがベースにあるけれど、弱いところをシンプルに突いてゴール前まで行けるのであれば、それで全然、構わないですから」と山田。その結果、いつも比べれば早いタイミング、テンポで相手の背後を突く攻撃が目立つことになった。だからといって、攻め急いだわけでもなかった。そんなところに、ピッチ内で共有されるもの強さ、確かさが表れていた。
状況を見て、判断しながらプレーする力は、守備においても発揮された。前半途中までは、経験豊富な鹿児島のベテランMF木村祐志に動き回られ、嫌なポジションを取られて、ボールを動かされた。中盤で対応を迫られる事態に陥ったわけだが、「誰にボールを持たせて、誰に持たせちゃいけないというところを、試合の中で修正できた」という。
当初は山田とMF島村拓弥のインサイドハーフ2人で木村、MF中原秀人という鹿児島のボランチ2人に対応していた。だが「途中から、できるだけボランチではなく、センターバックにボールを持たせることを意識した。センターフォワードの(中川)風希たちと話しながら、うまくできた」ことによって、センターバックからGKまでボールを下げさせ、さらに深追いしてサイドバックへとパスを誘導。そこで改めて人数を割いてプレスを掛けて、ボールを奪ってショートカウンターに持ち込む場面をたびたび作った。
「全部が全部、相手GKまでプレッシャーに行くのは難しい。でも、相手に気持ちよくプレーさせないことは重要。そこは前線の選手が頑張りたい。後ろも球際やヘディングで体を張って守ってくれている。点を取るところは運に左右される部分もあるけれど、運を引き寄せるためのクオリティーを上げるために、しっかりトレーニングで積んでいく」
手応え十分の試合だったからこそ、セットプレーの1点に屈した結果が悔やまれる。その悔しさが、ここから前進する原動力にもなる。
勝利した鹿児島は首位に立ち、勝点差は6となった。少し先を行く彼らの背中をしっかり捉えたまま、追いかけるチームの足取りは力強い。そのことを、試合後のミックスでポジティブな危機感をにじませ、取材に応じ続けた山田のたたずまいから確かに感じることができた。
Reported by 大中祐二