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【取材ノート:今治】白熱の四国ダービーを制したFC今治が手に入れたもの

2022年5月5日(木)
明治安田生命J3リーグの第8節。アウェイに乗り込んだFC今治が、新加入のオランダ人FWラルフ セウントイェンスの初ゴールによってカマタマーレ讃岐に1-0で勝利した。ゲームが最後まで白熱したのは、四国ダービーという構図に加え、前節終了時点でともに2勝1分けと3戦無敗、勝点1差でひとケタ順位(今治が6位、讃岐が8位)という好調同士が激突したからだ。

今治の橋川和晃監督は、「讃岐はとても良いチーム。入り方を間違えないことを意識し、自分たちがやってきたことを信じてプレーしながら、泥臭く1点を取ってくれた。いつも通りロースコアの試合になったが、選手たちはとてもポジティブに、我慢強くやってくれて、そういうものの浸透を感じることができた」と、奮闘したチームへの称賛を惜しまなかった。

チームは入り方を間違えるどころか、大正解だったといえよう。試合開始から右サイドを連動して崩し、立て続けにチャンスを作った。7分にはブラジル人FWインディオが左足で上げたクロスを、MF山田貴文がニアで薄くヘディングで合わせる決定機。ここは讃岐GK高橋拓也のファインセーブに遭ったが、立ち上がりのペースをつかんだ。

4-1-2-3の今治に対し、讃岐は3-4-2-1というフォーメーションの噛み合わせの違いを活用できたことが、ペースをにぎることにつながった。アンカーであるMF楠美圭史の両脇に山田、MF島村拓弥のインサイドハーフがタイミングよく下りてきて、臨機応変にボールを集配。交えるドリブルも効果的で、サイドバック、ウイングとの連係から讃岐ディフェンスの混乱を誘った。

ところが11分、16分と、逆にそのスペースを讃岐に使われてフィニッシュまで持ち込まれると、次第に流れは相手へと傾いていった。思うようにポゼッションできなくなり、なかなかボールを前進させられない。ハーフタイムを迎えたチームは、変化と修正が必要だった。

橋川監督は、後半の頭から右サイドでタメを作り、起点となるインディオに代えて、ポストプレーに長けた194cmのラルフを投入。センターフォワードの位置でターゲットとなることを求めた。讃岐の圧を受けていたチームもビルドアップ時にアンカーの楠美が最終ラインに落ちてサイドバックに高い位置を取らせるなど、改めてプレーのベクトルを讃岐ゴールへと向け直した。

新たな攻めの糸口を探っていたチームが見事にそれをたぐり寄せたのが65分。左サイドを突破したFW近藤高虎のクロスを、ペナルティエリア内に入っていた右サイドバックのDF野口航が頭で折り返し、ラルフが押し込んだ。


リードを奪うと、インサイドハーフとして投入したMF武井成豪を途中から一列下げて4-2-3-1とし、讃岐の2シャドーを抑えにかかる。さらに89分にはサイドバックのDF下口稚葉をセンターに入れて5-4-1にシフトチェンジし、勝ち切った。

「4-1-4-1から最後は5-4-1と“ローピング”を変えながらの戦いで、選手たちも対応してくれた。岡田メソッドは対応力のある選手を育てていくことを目標にしている。いろいろ対応できるチームになりつつある」と橋川監督も手応えを口にする、ウノゼロでの勝利。ローピングとは、岡田武史オーナー発案の指導体系『岡田メソッド』の用語で、「味方同士がロープでつながっているように連動して動く守備の仕方」のことだ。4試合連続無失点としたことが、メソッドの浸透とチームの成熟を物語る。

激しい攻防が最後まで続いた試合は、「紙一重なところもあった」(楠美)。接戦を制し、チームには勝点3以上のものがもたらされてもいる。

「今節の前に、前節、勝てなかったにせよ(△0-0テゲバジャーロ宮崎)、『われわれは一歩ずつ確実に進んでいるんだよ』という話を選手たちにはしていた。ただ、トップチームは勝敗によっても判断、評価される。選手たちは前進していると実感していても、負ければ迷いが出てくる。そういう意味でも、勝ち切れたことはよかった。チームには一体感があり、一つ一つ壁を乗り越えている」(橋川監督)

選手を代えながら1点を取りに行き、取った1点を選手を代えながら守り切る。競り勝ったチームの順位は6位と変わっていないが、首位との勝点差は5から3に縮まった。頂上を目指す足取りは、試合を重ねるごとに強まっている。

Reported by 大中祐二