「危なっかしかったですけどね。ただ、ピッチ上でみんなが戦うという姿勢は出ていたかなと思います」
原博実はフットボール本部長就任後、「まずは千葉戦」と何度となく強調していた試合で最低限のノルマを達成したチームを、そう評した。
そもそもが電撃的な就任で、時間的な余裕などなかった。就任オファーを受けたのは4月11日。即断即決で翌12日からチームに合流した。職位も、直接的にチームを変化させることのできる監督やコーチングスタッフではなく、その上の強化部長のさらにその上、トップチームだけでなく女子チームのVENTUSや育成、普及も統括する部門の本部長である。その中でトップチーム再生を優先していく。まずは現状把握に努め、そこから現場をサポートすることに腐心する。
「僕も現場をやっていましたけど、どうしてもこういうふうに(近視眼的に)入っちゃうので、違う形から見た意見を話したい。最後は監督なり選手なりがそれをどう感じてやるかということだとは思うんですけど。何かきっかけがあれば変わる可能性がある選手、チームだと思いますから、そのきっかけを作ってあげないといけないという思いですね」
果たして千葉戦。「前に強い千葉の守備陣なので裏に蹴られるほうが嫌だろう」という霜田監督の狙い通り、シンプルに千葉の背後へボールを入れていく。その処理ミスから河田篤秀の1点目が生まれ、さらに河田の個人技から追加点を奪う。
何より個々の選手の闘志が前面に出ていた。2得点を挙げただけでなく、守備でも大きな貢献を見せていた河田は「(原本部長は)ダメなところをはっきり言ってくれて、その上で、自分は味方だ、一緒に戦おうと言ってくれて、すごく大きな支えになった。この人のためにも頑張ろうという気持ちを掻き立てられた」と“原効果”を口にした。
もちろん、まだ1勝しただけである。
「次(山形戦)のほうが大事。勝点3を取ったことで少し前向きに、苦言も受け入れられるというか、チャレンジしていこうとなってくれればいいなと思っていますけどね」
千葉戦の翌日にはWEリーグ大宮VENTUS対千葉レディース戦も視察。大宮との契約期間は公にはなっていないが、長いスパンでの取り組みが必要なアカデミーからの選手育成も「ポテンシャルしかない」と意欲を見せている。
「目先だけを追っていくといつになっても同じことの繰り返しなので、怖がらずに長期の目線をしっかり持ちながら、目先の試合をしっかり戦っていく。これができるかどうかでクラブが繁栄していくかどうかが分かれると僕は思っています。そのポテンシャルがこのクラブにはあると僕は思っています」
大宮に携わってきた者にとっては耳の痛い、過去に何度も聞いたことがあるような言葉である。今度こそ生まれ変われるかどうか。大きな岐路に立ち、有用な人材をも得た。そのチャンスを生かすも殺すも、クラブ次第である。
Reported by 土地将靖