すでに明治安田J2第5節徳島戦で戦列復帰は果たしていたものの、やはりこの人がチームメートを率いてピッチに入らなければ始まらない。第6節岡山戦、ついにキャプテン三門雄大が先発メンバーに復帰した。
昨シーズン最終戦となった群馬戦で左太もも裏を痛め、今年はキャンプから別メニューでの調整が続いていた。プレーの部分ではチームに貢献できないものの、開幕から苦境にあえぐチームに外からアドバイスを送り続けた。
「みんなが自分中心に考えていると思った。俺がこうしたかったのにあいつが動いてくれなかった、とか。でも、まずはチームの勝利が優先。何人かの選手には、ちょっと違うんじゃないかという話はしました。僕らは1人で戦ってるわけじゃない。例えば僕がミスをした時に、(南)雄太さんがファインセーブで止めてくれるから信頼関係が生まれるし、次に雄太さんに何かあったら自分が助けてあげようと思える。サッカーの原点というか、チームスポーツにおいての一番大事な部分が欠けてしまっては、勝利に値するチームにはなれない」
それを証明する機会が、期せずして岡山戦で訪れた…いや、訪れてしまったというべきか。ゴール前での攻守の応酬の中で右まぶたを負傷した南がハーフタイムに交代。しかし、代わって入った上田智輝も右ひざにアクシデント。ゴールキーパーが誰もいなくなった。
前代未聞の緊急事態に、この日Jリーグデビューとなった栗本広輝が自身のサッカー人生でも初となる守護神役を務めることになる。シーズン初勝利を目指すチーム、1点リードの中で未経験の役割を課せられる重圧は計り知れない。三門はこう考えた。
「なるべくクリ(栗本)からボールを遠ざけたかった。クリが飛び出せる範囲は絶対的に雄太さんや智輝よりは少ない。相手が蹴ってくるにしても、1mでも2mでも相手コート側から蹴らせたかった、というのがチームの考えでもありました」
布陣を5-4-1に変えてしっかりとブロックを形成、誰もが途切れぬ集中力で、入ってくるボールはことごとく跳ね返した。これ以降、岡山に打たせたシュートはわずか1本。栗本のために、チームのためにと選手たちの心が、間違いなく一つになっていた。
残念ながら後半アディショナルタイム5分、その唯一のシュートで追いつかれてしまったが、この試合で得たものは少なくないはずだ。
「ここまでの5試合よりもボールを動かすことはできませんでした。ただ、仲間のため、チームのために勝つ最善を11人や(ベンチを含めた)18人が狙っていかないとだめなんだ、いいチームやいいサッカーにはなれないんだというのを少しは感じてくれたと思う。頭でっかちにビルドアップだのシステムだのとなっていたので、まずはそうじゃないよね、という意味では良かったと思います」
原点となる思いを胸に、また次へ。トンネルの向こうに、光は見えてきている――。
Reported by 土地将靖